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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】
原作開始前
プロローグ「俺の名前は朱染千夜」
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髪を一撫ですると、娘に向き直った。


「包帯の換え、持ってくるわね」


 そう言って部屋を出ようとした時だった。


「ここか」


 重厚な扉を開けて入室してきたのは一人の男性。萌香の母親は驚いた様子でその男性の顔を見た。


「一茶さん……」


 少年の顔をジッと見つめていた男性――一茶は一つ頷く。


「この者が萌香の言っていた人間か。……なるほど、私の命を狙ってきた退魔師かと思ったが、どうやらただの人間の様だな」


「父さん、この人の傷が治るまで家に置いてもいいか?」


 一茶は首を振った。


「それは無理だ。知っての通り我が朱染家は特定の生業はないが、闇社会では問題処理組織としての名が通っている。事実、表沙汰に出来ない事件を適任者が処理して報酬を得ている。朱染家に関わる者は強者でなければならんのだ」


 一茶は少年の首に手を置くと徐々に力を込めていく。


「父さん!」


「一茶さん!」


「人間なぞ脆弱で軟弱な弱者は我々バンパイアにとって贄でしかならん」


 そう言って、少年の首をへし折ろうする刹那――、


「――ッ!?」


 突然、一茶は少年の首から手を離し、一歩二歩と後退した。その手を自身の首に持っていく。


「一茶さん?」


 アカーシャの怪訝そうな言葉に一茶は唇を歪ませた。


「…………なるほど。弱者は弱者にしか成り得ないと思っていたが、何事にも例外があるということか……」


「――?」


 首を傾げる萌香の前で一茶は言葉を続ける。顔から――否、全身から冷や汗を流しながら。


「死が、見えたよ。この少年を殺そうとした時、私が肉片と化す姿が鮮明に、な」


 驚いた様子のアカーシャ。一茶は顎に手を置き黙考すると、萌香に向き直った。


「……萌香、先程の言葉は撤回しよう。この少年の滞在を許可する」


「本当か、父さん!?」


「うむ。だが、この少年が屋敷で生きられるかは少年自身の問題だ。我らの世界は弱肉強食の世界。使用人たちに食われれば、それはそれまでの話となる」


「ああ、わかっているよ」


「わかっているのなら良い」


 入室同様に静かに退室していく一茶。萌香が安堵の域を零す。


「よかったわね。確かに人間である彼がこの家で生活するのは大変でしょうから、萌香がフォローしてあげなさい」


「勿論そのつもりだ」


 なぜか偉そうに胸を張る萌香にアカーシャはクスクス笑った。


「そう。じゃあお母さんは部屋に戻るけど、何かあったら呼んでね」


 手を一振りし退室するアカーシャ。残され
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