第3話 人魚姫のルーン
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方ではない。少なくとも、今、俺は自らの左目を一切、開く事は出来ない。
刹那。床の方を向いていた俺の両の頬に、少し冷たい、そして柔らかな何かが触れる。
そして、未だ赤い生命の源を流し続ける個所を押さえ続けている左手を、そっと取り除く長門有希。
そんな彼女を、無事な右目の方のみで見つめながら、
「大丈夫や。何が起きたのかは判らないけど、直ぐに治まると思うから」
……と、かなり強がりの台詞を、少しの笑みと共に口にする俺。
それに、水の精霊を召喚して傷の治療を行って貰えば直ぐに治まるはずですから。少なくともその部分に関しては、俺は彼女にウソを吐いてはいません。
しかし、俺の強がりの台詞を聞く事もなく、彼女に因って強制的に自らの方を向いた俺の瞳を覗き込む長門。
玲瓏と表現すべきその表情からは何も感じさせる事はない。しかし、彼女が発している雰囲気は、悪意や害意を伴った物ではなかった。
そして、
「!」
突然、接近して来る彼女のくちびるに驚き、声にならない声を上げる俺。
しかし、そんな俺の反応など委細構わず、その滂沱として紅い生命の源を流し続ける左目に、自らのくちびるを押し当てる長門。
その瞬間、少し薄らぐ痛み。
そして、ゆっくりと過ぎて行く時計の秒針。
軽く、二度の周回を繰り返した時計の秒針が時を刻んだ後、長門から解放される俺。そして、其の時には既に痛み、更に流れ出ていた血涙さえも全て治まっていた。
これは……。
「……ありがとうな」
二、三度、瞬きを繰り返し、完全に痛みも違和感も残っていない事を確認した後に、彼女にそう告げる俺。
先ずは、傷を治してくれたのですから感謝の言葉を告げるのは当たり前でしょう。
彼女、長門有希と名乗った少女がどんな種類の人工生命体なのかは判りませんが、それでも超絶科学の結晶で有ろうとも、何らかの錬金術の成果で有ろうとも、人間の傷を癒す手段を持っている可能性は有ります。
まして、自らの息吹を吹きかける事によって、病魔などを払う魔法や術も存在していますから。
俺の感謝の言葉に、表情は今までと同じ透明な表情を浮かべたまま、コクリと小さく首肯く長門有希。しかし、その際に、少しの驚いたような気が発生したのは間違いない。
「俺の血涙が止まったのは長門さんが何らかの治療を施してくれたからやろう?」
俺の問いに、長門有希と名乗った少女が、微かに首肯く。これは肯定。
成るほど。矢張り彼女は、他人との接触の経験があまりないのだと思いますね。そして、彼女の造物主と言う存在は、彼女に何かを為して貰ったとしても、簡単に感謝の言葉を口にする事のない、純日本風の男性タイプの存在なのでしょう。
確かに身近に居る相手ほ
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