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蒼き夢の果てに
第4章 聖痕
第44話 水の精霊
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来の能力に因る強化を施し、樹木とも、そして、魔物とも付かぬその生命体に対応しようとする。
 しかし……。

「必要はない」

 しかし、涼やかな声が、そんな俺の行動の無意味を教えてくれた。
 そして、彼女の言葉に従うかのように、目の前に存在している蠢く森が、俺と、彼女に対して道を開いて行く。

 まるで、潮が引くように。

 その開いた道は……アスファルトに因る舗装された道路のように思えたのですが……。
 但し、彼らが立つ空間は、果てしなき闇が広がっているだけ。まるで、あの夢の世界を破壊し、呑み込もうとしていたショゴスが進んで来た道のように、黒々とした空間がただ広がるだけ。果てしなき虚無が其処には存在するだけで有った。

「まさか、海を割ったモーゼの気分を味わえるとは思わなかったよ」

 少し、軽い調子で、こう言う場面では必ず使われる台詞めいた一言を口にする俺。但し、妙な腐臭の立ち込める、異形の者の間を進んで行くのは、かなりの精神力を要する行為なのですが。
 ……俺に取っては。

 それに、何故、彼ら。黒い仔山羊たちが、俺と水の精霊の道行きを邪魔しないのか理由は判りませんが、おそらくは、それが森の黒山羊の意志なのでしょう。
 それとも、俺が水の精霊と感じたこの目の前の少女が、実は水の者ではなく、土の者だったと言う事なのでしょうか。

 俺は、水の精霊と思しき少女を見つめる。
 彼女も、俺の顔を見つめ返す。その瞳とメガネに俺を映し、彼女の発する気からは、寂寥感に似た気を感じる事は有りますが、俺を貶めようとする雰囲気は有りませんでした。

「彼女が、貴方を害する訳はない」

 俺の疑問に対して答えるように、ひっそりと、水の精霊がそう呟いた。彼女に相応しい口調、及び雰囲気で。

 成るほど。ここは夢の世界。そして、ここが夢の世界ならば、アレが伝承に残されている黒い仔山羊と同じ存在だとは限らない。
 そして、俺が呼ばれたと言う事は、この事態を起こしたのは俺の関係者なのでしょう。

 但し、俺と関係の深い相手とは、この世界にはタバサしか存在していないはずなのですが。

 其処まで考えてから、再び、俺と水の精霊らしき少女が歩んで来た世界を顧みる俺。
 その視線の先には、等間隔に並ぶ街灯と、一台の車が走る事もないアスファルトに覆われた道路。そして、無機質に立ち並ぶ、入れ物のみが存在する建物が並んでいるだけでした。

 どう考えてもこの夢の世界は、地球世界の様相を呈していますし……。
 但し、何故か生命体の生活を示す雰囲気はなし。まるで、映画かドラマのセットの如き作り物めいた雰囲気を発する奇妙な世界。

「その相手の正体や名前を教えて貰う訳には行かないんやろうか?」

 無駄な事に成る可能性も
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