アインクラッド 前編
亀裂は不安を呼んで
[6/6]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
は外国生まれではないかと推測する。
新たに登場した大男は自らを《エギル》と名乗り、尚も糾弾を続けようとするキバオウに向かって、一冊の本を取り出した。ネズミを図案化したマークが描かれているそれは、マサキたちも持っているアルゴの情報書だ。
「このガイドブック、あんただって貰っているだろう」
「貰たで。――それが何や」
「このガイドブックは、俺が新しい街や村に辿り着いたときには既に置かれていた。つまり、情報の速さからして、情報屋に情報を提供したのは、βテスト参加者以外にはありえないんだ」
その張りのあるバリトンに、観衆は思わず息を呑んだ。今まで剣呑な眼差しでエギルを睨んでいたキバオウも、これには驚きを隠せなかったようだ。――この中で唯一、マサキだけはそれを推測していたため、逆に彼らがそれを知らなかったことに対して驚いたのだが。
その後はエギルとディアベルの演説会だった。エギルが至極全うな論理でキバオウの屁理屈を論破すると、すかさずディアベルがβテスターの断罪を見送る方向で話をまとめ、キバオウを宥める。キバオウは反論することが出来ず、一つの鼻息と共に、ボス攻略後に元テスターを改めて糾弾するとだけ言い残して引き下がった。
「結局、あれだけか」
噴水広場を後にしながら、マサキは呟いた。“第一層フロアボス攻略会議”などといった大仰な名を冠したそれが、結局のところ三人が持論を展開しただけで終わってしまったからだ。尤も、まだボス部屋がある最上階へと続く階段が発見されただけに過ぎない以上、ある程度は覚悟していたが、もう少しは身のある議論にしたかったものだ。
マサキが頭上を見上げると、太陽は大分地平線に近付いてきていて、空の大部分が赤みの強いオレンジ色に染まっている。トウマの剣を選ぶために、マサキが店へ向かおうとすると、トウマはそれと反対方向に歩き出した。
「おい、トウマ。剣を選ぶんじゃなかったのか?」
「ああ、いいや。……なんか、今日は疲れちゃってさ」
そう言って口角を上げるが、そのスポーツ少年然とした爽やかな顔に浮かんだ笑みに力はなく、瞳には初日に見せた不安や動揺の色が色濃く浮き出ていた。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ