アインクラッド 前編
亀裂は不安を呼んで
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んでいるとは思えなかったし、その笑顔を鬱陶しいと感じることもなかった。これまた珍しいことだ。
(……しかし、気まぐれにしてはずいぶんと長く続くものだな)
初めてトウマと出会ったときの感情に、マサキは未だ気まぐれ以外の名前をつけることが出来ていない。だが、その感情はマサキの心の一部分を依然として占めており、それどころか、少しずつではあるものの、日に日に肥大化してさえいる。だが、それとは正反対のベクトルを持つ感情が、その肥大化を妨げていて、結果、数日前からその肥大化は止まっていた。――別に、それはマサキにとってさほど重要ではなく、だから何だと訊かれれば、「何でもない」と答える以外に選択肢がないというのもまた、事実ではあったが。
「マ〜サ〜キ〜、聞いてんのか?」
「聞いてるよ。……もしそれが目に入ったら、代わりに二度とその目の中に光が入ることはないだろうな」
「……お前、もうちょっとこう、ノリをよくと言うか、空気を読むと言うか、した方が良くないか?」
「余計なお世話だ。……行くぞ」
「行く? 何処に? それよりも、せっかくだから使ってみようぜ、《両手剣》」
マサキが憮然としつつトウマを一瞥して言うと、トウマは首をかしげ、分からないことをアピールした。マサキはそれを見て一度溜息をつき、返していた踵を再び反転させる。
「お前、どうやって《両手剣》スキルを使う気なんだ?」
「どうやってって……、そりゃ、装備を変えて使うに決まってるだろ」
「……その変える装備は?」
「……あ」
「…………」
マサキが呆れたように目を伏せながら首を振ると、トウマは悪戯を咎められた子供のように苦笑いし、頭を掻いた。
「いや、ほら、ようやく欲しかったスキルが手に入ったから、舞い上がっちゃってさ。……さ、そうと決まれば思い立ったが吉日だ。さっさと買いに行こうぜ」
トウマが作り笑いを浮かべながらマサキの背中を押し、市街地へと連れて行こうとする。マサキはもう一度トウマを睨みつけると、諦めたように迷宮区の出口へと足を向ける。すると、トウマもそれを理解したのか、マサキの背を筋力パラメータの最大値で押していた手を離し、マサキの隣に並び、歩を進める。
迷宮区を出るまでには、さほど時間は掛からなかった。元々距離がそこまで長くなかったのに加え、早く新しい剣を手にしたいトウマがいつになく速く歩いたためだ。
――尤も、歩きながらトウマに聞かされた、“新しい剣はどんなものがいいか”というタイトルの演説によって時間が引き延ばされたマサキには、その恩恵はほとんど感じられなかったのだが。
迷宮区を抜けると、青々とした草原の草をなびかせながら吹き渡った風が、二人の頬を撫でた。陰湿な迷宮区の、どんよりと濁ったような空気とは比べ物にな
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