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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission6 パンドラ
(9) クランスピア社正面玄関前~チャージブル大通り
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ってやれ。とにかく衣食住、特にあったかい飯は秘奥義並みだぞ。どうするかなんて腹膨れて寝てからじゃねえとロクな案出ねえんだ。生活に必要なアレコレは俺らで買ってくるから」
「あ……ごめん、アルヴィン。世話かける」
「いいって。ちったあ俺にもダチらしいことさせろよ」

 アルヴィンはルドガーの背中を景気づけにバシッと叩いた。ルドガーは苦笑した。

 ルドガーがジュードとミラのもとへ戻り、彼らを夕飯に招待したい旨を伝えている。あのミラに懐いたエルは瞳を輝かせているが、対照的にミラは終始沈んだ面持ちをしていた。

 それを見守っていると、ふいに腕を組まれた。急かされている。
 アルヴィンは肩を竦め、ユティを腕にぶら下げたまま、トリグラフの街へくり出した。





「あれで間違ってなかった?」
「バッチシ。打ち合わせしてなかったのに乗ってくれてサンキューな」
「アルフレド、ずっとミラのこと心配そうに見てたから、そうするかなって」

 アルヴィンも同意見だ。何故か、ユティなら息を合わせてくれる、そんな気がした。

「さっきの」
「ん?」
「リーゼ・マクシアでの、経験談?」
「……まあ、な」


 仲間を裏切り、母は死に、組織もほぼ潰え、居場所などどこにも見出せなかった。作る気概もなかった。
 そんな落ちぶれた男に、湯気の立つ温かな飯を恵んでくれた、いい女たち。
 ――もう、どこにもいない。


 するとユティはきつくアルヴィンの腕にしがみついた。

「……大丈夫だって。そんな顔するなよ」
「どんな顔もしてない」
「泣きそうな顔して強がったってバレバレだぞ。ん?」
「……アルフレドが、リーゼ・マクシアで辛かったろうな、痛かったろうな、寂し、かったろうな、って……想像、したら、急に……アルフレドにあったこと、だから、よけいに……」

 アルヴィンは何も言わず、しがみつくユティの髪を梳いた。

「訊かないね」
「何を」
「アルフレドが気にしてること」
「訊いてほしいのか」

 訊かれても答えられないことなど人にはいくらでもある。アルヴィンも悪い意味でそうだった。彼女にも彼女なりの事情があるなら、そっとしておくのが正しい対処法だ。

「きかないで――まだ」
「了解」

 ユティはリラックスした猫のようにアルヴィンの腕にすり寄った。

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