Mission
Mission6 パンドラ
(8) ニ・アケリア村 参道入口前
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現実に聴こえた気がするほど生々しい音を立てて、心の天秤が傾ききった。
(兄さん、が、俺、を?)
もどかしいくらいの時間をかけてユリウスをふり返る。そしてルドガーは、リドウの言葉が事実だと知った。ユリウスを見て、そうだったんだ、と分かるくらいには長い付き合いなのだ。
「――何でだ」
「あ、れは……」
「何でだよ! 何で邪魔したんだ! 俺がずっとクラン社のエージェントになりたいと思ってたの知ってただろ!? なのに、どうして!」
「違う! あれはお前を思ってのことだ。お前を少しでもこんな世界から遠ざけたかった。俺を信じてくれ、ルドガー」
信じてくれ。
ユリウスのその一言で、ルドガーの中でぐちゃぐちゃだったものが一点に集約した。
――“何で? 昔は何でも話してくれたのに”――
常に自分の上にいる兄。自分をいいように動かそうとした兄。
そんな兄の庇護がなければ何もできない自分。――もうたくさんだ。
ルドガーは双剣の片方を抜き、ユリウスに突きつけた。
「兄さんの何を信じろって言うんだ。肝心なことはずっと隠してたくせに」
「それ、は……」
――“お前なんかに話すことなんてない。とっとと帰りなさい!”――
「俺を守るため? ふざけんな。遠ざけて邪魔して、なのに知識だけは与えて。それで俺がどんなにみじめな気持ちだったか兄さんには分かるか?」
――“姉さんが何をしてるか気になって…”――
――“関係ない”――
「守ってくれたのも甘やかしてくれたのも知ってるし、感謝してる。兄さんが俺のためにどんなに頑張ってくれたかも、少しは分かってるつもりだ。だから兄さんの助けになりたくて、兄さんに並びたくて俺なりに今日まで努力してきた。そんな俺の気持ちも知らずに、兄さんは俺を叩き潰した。兄さんにとって俺はそんなに目障りだったんだな」
「ルドガー、違う! 俺は」
「違わない」
――“姉さんが、悪いのよ”――
「俺は俺のやりたいようにやる。俺はもう兄さんに頼るような子どもじゃない。兄さんにあれこれ指図されなくたって、自分の道くらい決められる」
剣を間に、兄弟は睨み合った。翠と蒼の眼光がぶつかり合った。
ユリウスと本気で睨み合ったのなど何年ぶりだろうか。思えばここ数年、ケンカらしいケンカさえしていなかった。
「連行しろ」
リドウの指示に、ノーマルエージェントたちが動き出す。ユリウスに黒匣製の手錠をかけ、警杖を交差させて無理やり歩かせる。
まさに犯罪者の連行という光景を、ルドガーは目を背けずしっかりと見届けた。
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