暁 〜小説投稿サイト〜
レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission6 パンドラ
(8) ニ・アケリア村 参道入口前
[1/2]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「なかなかに見応えのあるショーだったぜ。イバル君にユースティア君に――ユリウス?」
「リドウさん! 何でここに」

 ノーマルエージェントを数名引き連れたリドウが立っていた。

「だって俺、分史対策室室長だから。――お前が弟のこと以外で声を荒げるの、初めて見せてもらったぜ、『元』室長。貴重なシーンありがとさん」

 ユリウスは隠しもせず舌打ちした。あの、マナーにはうるさいユリウスが。よほどリドウを嫌っているらしい。
 だが、それ以上に、ルドガーの心には引っかかるものがあった。

(そういえば、兄さんが俺の前でこの手のマイナス感情を出すの、もう何年も見てない。引き取られたばっかの頃は、むしろ分かりやすいくらい喜怒哀楽があったのに。いつからだ。いつから兄さんは俺に本心を曝け出さなくなった? いつから兄さんは俺に心を見せなくなった?)

「お前に見せるためにやったわけじゃない」
「――そのスカした態度が気に入らないんだよ」

 リドウは聴こえないよう言ったつもりだろうが、ルドガーは立ち位置のせいかしっかり聞き取れた。

「さて、ルドガー君。回収した『道標』を提出してくれ。以後、分史対策室で厳重に保管する」

 個人的にはいけ好かない男だが、エージェントたるルドガーにとってリドウは上司だ。
 ルドガーはリドウの前まで歩いて行き、ポケットから「道標」を出してリドウに手渡した。リドウはノーマルエージェントが開けたアタッシュケースに、白金の歯車の集合体を収めた。

「確かに。初任務ご苦労さん、新人君」
「――ありがとうございます、室長」
「で、だ。せっかく一仕事終えたところ悪いが、もう一つ任務を与える。――エージェント・ルドガー。分史対策室前室長ユリウスを捕縛しろ」

 ルドガーは反射的にリドウを見返していた。リドウはニヤニヤするばかり。
 分かっている。この男は分かった上で、兄弟で捕物の茶番を演じさせようとしている――!

 ユリウスが行方を眩ましたのは、ルドガーと離れることでルドガーの目を一族から遠ざけるため。ルドガーを想っての行いだ。だから列車テロの首謀者だと報じられても、釈明一つせず逃げ回る――そう、手紙には書いてあった。

(結局、全部裏目に出て、俺はクルスニク一族の一員になった。もう兄さんが姿を隠す意味はない。警察に連行されるユリウスなんて見たくない。いっそ俺の手で……)

 天秤はほとんどリドウの命令を聞く側に傾いていた。

「悲しいなあ、ユリウス。まさかエージェントになった弟にお縄を頂戴するハメになるなんて。せっかくルドガー君を()()()()()()()()()()()()()()()?」


[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ