暁 〜小説投稿サイト〜
人狼と雷狼竜
訓練模様と……
[1/8]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「手合わせして」
 その言葉で、文字通り時が凍り付いた。のほほんとした笑みを崩さない夏空ですらも呆然と硬直している。
 正太郎は何かを言おうとしていたが、酸素不足の魚のように口をぱくぱくと動かすのが精一杯だった。
「……正気か?」
 ややあってから、ヴォルフが口を開いた。その視線は厳しく小冬の覚悟を試しているかのようだ。
「何も本気でやって欲しい訳じゃないわ。今の私じゃ瞬きする暇も無く負ける」
 小冬は冷静にヴォルフの目を見詰め返した。そこにあるのは、あくまでも純粋な気持ちだった。
「今の私の実力を正確に見るには一番の方法でしょうし」
 細かい部分を省けば確かにその通りだ。
「それが理由」
 小冬はそう言いながら背負っていた二刀を抜いた。
 左半身を前に出し、右手を頭上に、左手を腰より前に出し、二刀の切っ先が交差するような構えだ。
「それとも、何処かのヘタレみたいに『女の子に傷を付けたくない』とでも言うつもり?」
 小冬がいつもの調子に戻って挑戦的にニヤリと笑う。
「良いだろう」
 ヴォルフは腰に差していた刀帯から抜くと、鞘から紐を伸ばして刀を背負いつつ紐を胸元で縛る。
 そして、正太郎が持っていた太刀を抜いた。
 しかし、太刀本体の方を地面に突き刺すと、鉄製の鞘を刀のように持って切っ先を前に向けた八相の構えを取った。
「……何のつもり?」
「安心して全力を出せるだろう? 万が一にも死ぬことは無い」
 ヴォルフの言葉に小冬の笑みが崩れ、無表情になった。しかし、目つきは鋭くなっている。挑発したつもりが逆に挑発されて、小冬は逆上していた。
 ヴォルフはいつも通り無表情だったが、彼が表情豊かなら小冬と同じようにニヤリと笑っていただろう。
「え、えと……」
 一触即発の事態に神無はオロオロとうろたえ始めた。
「大丈夫ですよ。ヴォルちゃんを信じてあげてください」
「お姉ちゃん」
 夏空の言葉に、神無は姉の言うとおりだとホッと息を吐いた。
「でも、万一のことがあったら責任は取って貰いますけどね〜」
 と、何処か物騒な響きを持った言葉が奇襲となって神無の不安を余計に煽った。
「お、お姉ちゃん?」
「始まるみたいですよ?」
 夏空のその言葉に思わず前をヴォルフ達を見た神無が目にしたものは、小冬がヴォルフに斬り掛かるところだった。





 小冬は姿勢を低くしたまま踏み込み、左手の短刀をヴォルフの腹部目掛けて突き出す。
 対するヴォルフは柄に見立てた太刀の鞘で、その突きを逸した。しかし、小冬は二刀使いだ。威力は軽くとも、すぐにもう片方の手で攻撃できる。
 すぐさま二撃目を放とうと右手の短刀を振りかざす……前にヴォルフの左掌が小冬の額を直撃した。
「うっ!?」
 反動で数歩後ろに下がってしまう。
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ