第六章 贖罪の炎赤石
第四話 迫り来る脅威
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が乏しい部屋の中を進み、広々とした部屋に置かれた、かつて王が腰を下ろしていた椅子にクロムウェルは腰掛ける。座り心地を確かめるように軽く体を動かした後、椅子の背もたれに深く座り直したクロムウェルは、隣に立つシェフィールに顔を向けず声を上げた。
「……メンヌヴィル君」
独り言のような呟きは、広い執務室に広がり切る前に消えてしまい、答えるものはいないかに思えたが、
「随分と待たされましたな」
部屋の隅、光が届かない暗闇の中から、ぞろりと這い出るように現れた男がそれに答えた。
ゆっくりと忍び寄るように現れた男は、白髪と顔に刻まれた皺から歳の頃は四十をいくつか超えたぐらいの男。服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体は、男が戦う者であることを伝えていた。アルビオンの王の前にいるにもかかわらず、男に緊張した様子は見られない。身を包む衣服も、礼装には程遠いラフな格好をしている。体を覆うマントと腰に下げられている杖から、男がメイジであることをわかった。
クロムウェルの前で立ち止まった男の顔を、魔法の明かりが照らし出す。
魔法の明かりにより露わにされた男の顔には、顔の左半分を覆うように広がる火傷の跡がある。
男は口を裂くような笑みを浮かべると、クロムウェルに問いかけた。
「それで、あなたはオレに何をさせるつもりなんだ?」
「なに、君ならば簡単なことだ」
口元だけで笑う男に、微かに引きつった笑みを返したクロムウェルは、隣に立つシェフィールに視線を向けた。シェフィールが小さく頷くのを見たクロムウェルは、顎に手をあて撫でながら、世間話をするような軽い調子でメンヌヴィルに依頼の内容を伝える。
「魔法学院……君にはそこを占領してもらいたいのだ」
雲一つなく晴れ渡った空の下、アウストリの広場にあるベンチの上に、キュルケとタバサは隣り合って座っていた。今は休み時間であり、本来ならば、多くの生徒たちで賑わっている時間帯にもかかわらず、視界には数人の女生徒の姿しかない。
まるで通夜のような静けさの中、キュルケはベンチに深く座り込みながら、隣に座るタバサに顔を向けずポツリと呟く。
「……寂しいものね」
「……」
タバサは何時もどおり開いた本を黙々と読んでいる。返事が返ってこないことに対し、キュルケは特に何も言わない。ただ、気だるそうに真っ青に晴れ渡る空を仰ぐと、眩しげに目を細めた。
「戦争……か……本当に……嫌ね……」
「…………」
アウストリの広場が閑散としているのには理由があった。間もなく始まる戦争で、士官不足に悩む王軍に、男子生徒のほとんどが志願したためである。その中には、キュルケの知り合いも多く含まれていた。
男子生徒の姿が消えたことや、戦争が始ま
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