第五十九話 兄その五
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「作らせて頂きます」
「うん。好きなのを作っていいからな」
「有り難うございます」
貫之はそれを受けてすぐに店の奥に消えた。この時に皆に対して言うのだった。
「では京風料理を作らせて頂きます」
「京風料理!?」
「はい」
皆の言葉に応える。
「そうです、京風料理です」
「それってどんなのかしら」
「お楽しみを」
最後まで応えようとはしなかった。あえて秘密にしているのがわかる。
貫之は姿を消した。そうして残された一同はあれやこれやとヒソヒソと話をするのだった。
「何が出るのかな」
「それが問題よね」
話題は当然ながらその京風料理についてであった。何が出るのか予想がつかなかったのだ。彼等は和食は知っていたがそこまでで京風というものは知らなかったのだ。
それは七海も同じだった。彼女もそこまでは知らなかった。
それで彰子に問う。それは何なのかと。
「ねえ」
「うん」
彰子はすぐに七海に顔を向けて応える。
「京風料理って何?」
「大阪料理って知ってるわね」
「ああ、お好み焼きとかきつねうどんとかたこ焼きとか」
こうした料理はこの時代にもある。日本ではかなりポピュラーな料理であり八条学園の食堂にもメニューとしてちゃんと存在している。
「ああいうのね」
「それと同じ感じなの」
「じゃあ味が濃いのね」
大阪風は味が濃い。これは七海も知っている。
「それじゃあ私に合ってるかも」
「それが違うの」
だが彰子はここでこう言うのだった。
「京風は薄味よ」
「薄味なの」
「そうなの」
また答えた。
「そうなんだ」
七海は薄味と聞いて落胆した感じになる。
「何か」
「嫌なのか」
その彼女にダンが問う。
「薄味は」
「ううん、好みだけれどね」
ダンにバツの悪い顔で答える。ダンはそーきそばを食べていた。
「あまり。ねえ」
「薄味もいいと思うがな」
そう言いつつかなり濃い味で有名な足てびちを食べるダンであった。これも貫之が作ったものだ。この足てびちはかなり味が濃かった。
「俺は」
「じゃあその足てびちは何よ」
七海もそこを突っ込む。
「かなり濃い味じゃない」
「それはそれ、これはこれだ」
ダンはクールにきっぱりと言い切る。
「濃い味は濃い味で、薄い味は薄い味でいい」
「そうなの」
「少なくとも俺はそう思う」
こう述べたのであった。
「それぞれの味だな」
「相変わらずそういうところの度量は広いのね」
「そうか?」
実はダンにはそんな自覚はない。というよりは気にはしていない。
「自分ではそうは思わないがな」
「少なくともカムイよりはね」
「それもそれぞれだしな」
こうも言うのだった。
「あいつはあいつで。あれでいい」
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