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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第二話 敵は幾千 我らは八百
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官の進言を無視して見捨てられた可能性がある、新城の存在が彼を焦らせたか?

 伊藤少佐は青筋を立てている戦務幕僚と陰鬱な顔で物思いに耽っている情報幕僚を横目でみて鼻で笑い、言った
「役立たずのボンボン隊長と兵三名…。奴の事だ。馬鹿な奴等を選んだのだろう。
それで中隊主力が無傷で帰還するのだ。取り敢えずは十分だろう。」

 ――率直な人だ、この手の率直さは、「奴」と似通っている、我が指揮官殿は「奴」が気に食わない様だが同族嫌悪なのだろうか。
 馬堂大尉は苦笑して、先へ向かう為の方策へと思考を切り替えた。

 ――さて、若菜はアレでも一応中隊長だった。
「大隊長殿、戦死した中隊長の後任はどうしますか?」
 ――この大隊の最先任中尉はその「奴」だがそのまま繰り上げか? 少なくとも、若菜が居た頃よりは使える中隊にはなるだろう。

「勿論、新城中尉を充てる中尉の最先任だ。若菜よりは使えるだろう――貴様の考え通りならばな」
とにやりと笑みを浮かべて答えられ、馬堂大尉は思わず頬を撫でた。
 ――いかんな、顔に出ていたか?

 中隊に関する人務も決定すると、本部は本格的な作戦立案へととりかかった。第二中隊から(ようやく)まともな報告が来た為、半ば麻痺していた大隊本部は無為に過ごした時間を取り戻すかのように対応策の構築に取り掛かった。
 馬堂大尉も、戦務幕僚と顔をつき合わせて言葉を交わす。
「連隊、騎兵連隊でしょう、恐らくは主力は増援との合流を優先させている筈です。
 帝族が指揮官なのですから一度会戦で勝利した以上、後は先遣隊を編成して戦果拡張するだけでしょう。主力は前線にでない筈です。大切な姫様の初の外征に泥を塗りたく無いでしょう」

「問題は先遣隊の規模だ、情報幕僚。 どう考える?」
 戦務が馬堂大尉に再び話を振る。
「確実に一個旅団規模――六千以上でしょうね。
――これは推論ですが先の軽騎兵とは別に、胸甲騎兵連隊が控えている可能性は極めて高いです、何しろ連中の自慢の精兵ですから蛮軍の追撃に使わわない筈がありません。
 砲の数はそれ程でもないでしょう。持ってくるのは騎兵砲に平射砲――軽砲が中心でしょうね。
行軍速度を重視するでしょうし、重厚長大な火力線を挑むとなると流石に<帝国>軍も補給線の維持が出来なくなる」
 情報幕僚の分析を聞きながら戦務幕僚は顎を掻いた。
「問題は真室大橋を確保したがるかだな――兵力の輸送に限界があったからこそ増援を待たずに会戦を挑んだ。それを考えると工兵の数は少ないと見るべきか?
〈帝国〉は北国だ、真冬の川で作業する技術は持っているだろうが破壊すれば時間を稼げるか?」

「いえ、増援は既に到着しています、支援部隊の不足はあまり期待しない方が良いでしょう。
ですがそうした工作を嫌がる
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