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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第二話 敵は幾千 我らは八百
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察は威力偵察ではない、彼我の戦力比が此方に不利である事は予想されている。
戦力の消耗を避ける事を念頭に置いて敵情の収集に専念してもらいたい」
 そこまで言うと馬堂大尉は大隊長に視線を送り、伊藤はそれに対して頷くと若菜へと云った。
「そう云うことだ、焦って兵を無駄使いするなよ」
 若菜は――顔を強ばらせて頷いた。



同日 午後第五刻 独立剣虎兵大隊本部 開念寺
大隊情報幕僚 馬堂豊久大尉


 本堂から外に出ると、馬堂豊久は細巻に火を点け、紫煙を吐き出した。

 ――天狼から今日まで第十一大隊は過失を最大限に抑えて行動できた筈だ 、矢張りと言うべきか脱走兵は何人か出たがその馬鹿達を含めてもこの大隊の損害は許容範囲内だ。諸兵科連合の要である砲の損失を一門に抑えて撤退出来たのは幸いだ。僅かでも撤退が遅れていたら混乱に巻き込まれ、火力の半数以上は失われたに違いない。戦闘に巻き込まれずにここまで戦力を保持して後退できただけでも最高だ。

 そう考えているわりには、馬堂大尉の顔色は冴えないものであった、偵察に出ている第二中隊の帰還が遅れているからであった。
 第二中隊から導術で送られた最後の報告では北北西側道上に敵戦力を確認、若菜中隊長自らが将校斥候へ赴き、一刻の間は新城中尉が当面の指揮を代行する、と云うモノである。
 ――この大隊でも一二を争う実戦経験者である新城が指揮権を掌握しているのならば、余程の事が無い限りもう帰還するはずなのだが――余程の事、それが何事なのか考えたくもないが、情報分析も今の俺の仕事だ。

 鬱々とした表情で門前に佇み、送り出した中隊を待ちながら考え込んでいると衛兵が駆け寄ってきた。

「大尉殿!第二中隊より報告です。本堂にお戻り下さい。」
 ――少なくとも導術連絡が出来る状況か
 幕僚としても私人としても馬堂豊久大尉は素直に胸をなで下ろした。



「――以上中隊長ラ四名、中隊主力ノ離脱ヲ援護セント囮トナリ戦死セリ。
現在負傷シタ天龍ヲ発見大協約ニ基ヅキ救援ヲ行イシ為
帰還ハ約二刻後の見込ミ
発、第二中隊兵站幕僚 新城直衛中尉 宛、大隊本部」
 報告が終わった途端に戦務幕僚の怒鳴り声が本堂に響きわたった。
「負傷した天龍と遭遇しただと!? ふざけるな!そのような都合の良い話があるか!
若菜大尉達を見捨てて逃げ出したから遅れたのだろう!」

「……」
 情報幕僚である馬堂大尉は黙したまま考えこんでいた。

 ――仮にも俺の主家にて末弟の地位にある男であるが、俺はその可能性を否定できない。若菜は実戦経験も無く偵察に出る前の会議の発言からもおよそ実戦向きとは思えない家柄だけで昇進した将家による軍閥制の弊害を体現したような人間だと推測できる。
幕僚――新城や下士
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