修行と……
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でいる。彼女の場合は立ち回りを徹底して覚え、自身で考えて行動できるようになれば十分といえた。
そして事の原因となった正太郎は……ヴォルフは目を覆いたくなった。
先程から太刀を振るい続けている正太郎だが、彼は気付いているのだろうか……全く刃筋が立っていないことに。
太刀とはその精密な刀身故に、扱いその物にも精密さを要求される物だ。それが出来なければ切る事など不可能であり、最悪の場合、刀身が折れる。
コレでは何処から手を付ければ良いのか検討も付かない。よくアレで一年間のサバイバルを生き抜いたものである。
唐竹割りから逆風に切り上げ、逆袈裟に振り下ろす。しかし、その刃はまったく立てられていない。そんな太刀筋を見て思う。これが才能の無さというものか……と。
ただ、膂力(背骨の力。腕力とも)は相当鍛えられている。あれなら金棒か大剣、ハンマーでも持たせた方が良いかもしれない。
そして、左胴切りから柄を握りなおして突きへと変化する。
「む?」
その突きを見たヴォルフが眉根を寄せた。
「正太郎」
近付きながら声を掛ける。
「お、着替え終わったのか。始めようぜ。何からやれば良い?」
何やら張り切っている正太郎だったが、ヴォルフは難しい顔で正太郎を見ていた。
「ん? どうしたよ? 何か変か?」
「突きを」
「は?」
「突きを撃って見せろ」
ヴォルフの言葉に正太郎は訝しみながらも突きを繰り出す。
「どうだ?」
「まだだ。もっと繰り返せ」
正太郎は言われた通りに刺突を繰り出した。右利きらしく、右肩を引いた大きな突きだ。それを繰り返す。
ヴォルフは正太郎の周囲をゆっくりと回りながらその動きを観察する。
「なぁ? そろそろ良いか?」
ヴォルフが一周した所で声を掛けた。
「今度は片手だけで繰り返せ。やり方は任せるが、同じ出し方はするな」
「は? 何だそりゃ? どうしろと?」
正太郎が意味が分からないとでも言うように言う。
「突きとは一言に言っても様々な出し方があるだろう。それら全てを見せろ。ただし、片手でだ。利き手を使え」
「分かったよ」
正太郎は右手で刀の鍔元を持ち、突きを繰り出した。
腕の力だけで無造作に放つ突き。肩を引いて勢いよく突き出す突き。肩を大きく引き、腰の捻りと共に前に踏み出しながら放つ大きな突き。等々。
「もういい」
それら全てを見たヴォルフが止めるように言い、軽く息が上がったらしい正太郎は太刀を降ろしてヴォルフを見た。
「なぁ、一体何があったんだ? 突きだけなんて太刀じゃなくても出来るんだぜ?」
「その通りだ」
ヴォルフはそう言いながら正太郎から太刀を取った。奪い取ったのではなく、ごく自然にヴォルフの掌に収まっていた。
「へ? ああっ!?」
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