第百十一話 青を見つつその十二
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「その者については」
「そうじゃな。飲ませるか」
「酒をですな」
「そうじゃ。飲ませる」
まさにそうするというのだ。
「一杯な」
「わざと歌わぬ者もいそうですな」
「ははは、それもまた一興じゃ」
信玄はそうしたふざけも浮け入れていた。
「酒も飲んでこそじゃ」
「それで、ですな」
「一度越後の龍とも飲んでみたい」
謙信についても語る。
「そして尾張の蛟龍とも、といきたいがのう」
「あの御仁は酒は飲めぬそうですな」
「では茶じゃ」
信玄はすぐにそれだと話を切り替えた。
「あの者についてはじゃ」
「茶ですか」
「うむ、茶じゃ」
それだというのだ。
「茶を共に飲もう」
「そしてその茶は」
今度は高坂が問うてきた。
「誰が淹れるのでしょうか」
「わしじゃ」
他ならぬ信玄自身がだというのだ。
「わしが淹れる」
「御館様がですか」
「そしてあの者と共に飲む」
信長、彼とだというのだ。
「そうするとしよう」
「左様ですか。しかし」
ここで高坂は首を捻ってこう言ったのだった。
「織田信長という者、意外ですな」
「酒を飲めぬことか」
「はい、このことは天下に知られておりますが」
それだけ信長のことが各家にも知られているということだがその中でもなのだ。
「しかしそれでも」
「うむ、わしも実はあの者は酒を好むと思っていた」
実は信玄自身もそう思っていた。だがそれがだったのだ。
「しかしそれでもじゃ」
「意外なことにですな」
「全くじゃ。しかしそれはそれでよい」
信長が下戸であるのもまたよいというのだ。
「人間味があってな」
「そういうものですか」
「そうじゃ。だからこそあの者が妙に気に入った」
信長のその下戸であることからさらにだというのだ。
「越後の龍と共にな」
「上杉謙信は恐るべき敵でございます」
武田家随一の猛将である山県から見ても謙信はそうだった。その強さはまさに鬼神と呼ぶに相応しいものだ。
だがそこからだというのだ。
「しかし御館様と渡り合えるだけの」
「それだけのものがあるからじゃ」
「そして尾張の蛟龍もまた」
「虎が二匹の龍を左右に置いて天下を治める」
信玄は確かな笑みで答える。
「あの二人は天下に必要じゃ。そして」
「そして」
「そしてといいますと」
二十四将と幸村が応える。そこに信玄はさらに言った。
「御主達も無論必要じゃ。特に幸村」
「それがしは」
「御主は天下一の武士を目指せ」
信玄は幸村に強く述べていた。
「よいな。天下一のじゃ」
「それがしが天下の」
「そうじゃ。目指せ」
まさにだというのだ。
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