メディスン・メランコリー 〜無名の丘〜
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さに耐え切れずにいる私は、もう上手く笑うことができなくなっていた。
無表情で、無感情だった。涙はもう枯れ尽くしていた。私は操り人形になっていった。
だけど、メディスンが意識を持ったのだ。
私には、彼女の思いを伝える義務がある。
話すことも出来ない私は、せめてメディスンの前では笑顔でいることにしていた。
私は、彼女が、メディスンが好きだからだ。
「こんな場所があったなんて気づかなかった!」
「秋にはここには何も無いものね。ここにお人形さんがいるわ」
2人が私に話しかけてきた。とりあえず、挨拶、が必要だと思った。初対面の人にはなおさらだ。
「こんばんわ」
返事をすると、彼女達は少し驚いていた。野生の人形が礼儀を知り尽くしている事に驚くのは無理もないのかもしれない。あるいは私が驚く程可愛いからという線もある。
「鈴蘭を眺めていたの?私たちもご一緒していいかしら?」
「秋には無い珍しい花だからね!」
いやよ!と何となく言いたかった。初対面で何を喋ればいいかわからないし、そもそも一緒に眺める意味があるとは思えなかった。
こういった事態には不慣れだ。今までスーさんに話していただけだから。私は会話というものをしたことがなかった。礼儀正しく何とかして断らないと!と思ったけど、断りの言葉が出てこなかった。色々と考えてはみたものの、面倒になったので辞めた。何故かあまり頭が働かなかったから。そうか、これが優しさというものなんだな、と思った。自分が意外と優しいことに気づけたのは収穫だった。意識せずにここまで出来ると、自分が恐ろしくもあった。
二人は私の隣に座って話し始めた。彼女達はこの世界(幻想郷というのだそうだ)の秋の季節を司る神様らしいのだ。とてもそうは見えないが、どうやら本気で言っているようなので、そういうことにしておいた。お姉さんの方は‘秋静葉’といって、妹の方は‘秋穣子’というそうだ。紅葉を操る力や、大地の実りをコントロールする力があるそうだ。設定でも、もっといい能力にしたほうがいい気がした。金色の髪の毛に、私とは違った洋服を着ていた。華やかな色の彼女達の服は、黒っぽくて汚れてる私のと違い、可愛く思えた。
「あなたのお名前は?」
秋静葉が話しかけてきた。
「分からない。以前の記憶が無くなってて、最近になってここで目を覚ましたから」
考えたこともなかった。自分の名前なんてあるのかないのかすら分からなかった。
「あなた、お人形さんよね?さっきまで誰かと一緒だったようだけど、持ち主さんなのかしら?」
「さっき?ああ、今は居ないけど、スーさんは私が目を覚ました時からいたのよ。
妖精だと思うんだけど。」
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