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メディスン・メランコリー 〜無名の丘〜
メディスン・メランコリー 〜無名の丘〜
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沈黙の時が流れて、私達はずっと座っていた。いつの間にか眠ってしまっていた。その日の眠りは、なんだか昨日より少し温かかった気がする。

 ――――里へ行っちゃダメだよ!

眠っていると、また声がした。今度は聞き間違えようのない、はっきりとした声だった。寝ている状態では彼女の声がよく聞こえるのかもしれない。

「・・・・・スーさん?スーさんなの?」

翌日、目が覚めると、そこにスーさんの姿は無かった。
辺りを見回すと、どこにもいなかった。岩の後ろにでも隠れてるんじゃないかと思い、立ち上がった。後ろへ回ってみても居なかった。ずっと視界に中にいたスーさんがいないと、変な感じだった。私は岩の周りをぐるぐると回りながら、彼女の行き先について物凄く考えてみた。
そして、私は重大な事に気づいた。
何故か私の体が動いているのだ。この事にいち早く気づいた私の洞察力は素晴らしいものがあるな、と思った。考えるよりも先に、なんとすでに動いている摩訶不思議さなのだ。何故動くか少し考えてみたが、どうでもいいことだったので、考えるのを辞めた。それよりも自身の順応性の高さに賞賛を送りながら、スーさんを探していることを思い出した。居なくなったとしても、別に気にはならないけど。彼女のいる景色を私は見慣れていることに気づいた。だから視界に入ってないと違和感があるので、いてもいなくても迷惑だった。
辺りを見回し歩いてみたが、スーさんの姿は見当たらなかった。
鈴蘭の上を歩くと、葉が足に絡みついて、ちぎれたりした。歩いた部分は踏みつけられ、道が出来ていた。途中で引き返すことにした。洋服がさらに汚れそうだったのと、なにより足が青臭くなりそうで嫌だった。
私はこの丘から出て探してみようとも思った。しかし、何故かこの場所から動こうとは思えなかった。動いてはいけない気がした。何が原因かは全く分からないが、探す労力とスーさんの存在を天秤にかけたのかもしれない。記憶も心も無い私は、この場所しか知らなかったからなのかもしれない。いずれにせよ、探すことは諦めた。私は再び同じ場所に座った。
鈴蘭の草原の中、空を仰いだ。沢山の星が輝いていた。
スーさんなんて存在していなかったように、この場所には私しかいなかった。もう戻ってこないことを考えると、また胸の中がざわざわした。これは新たな感覚だ。私の中の何かが囁いた。これは恨みだ、と。置いていかれたのだ、捨てられたのだ、そういう風に思えた。もしスーさんが死んでしまっている場合でも、最後に殺すのは私でないと色々と納得できなかった。捨てられた者にこそ、捨てた者を裁く権利があるように思えてきた。何故そう思えるのか分からないけど。私は彼女の心からの叫びを欲した。私は想像してみる。何回も何回もスーさんの首を折り、手足をねじり、引き裂いてはくっつけてみることに
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