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メディスン・メランコリー 〜無名の丘〜
メディスン・メランコリー 〜無名の丘〜
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小さな私を見ているようだった。上下に羽を動かし、私の顔を覗いている。妖精から微かに鈴蘭の香りがしていた。彼女は、私の記憶にある小さな妖精だと分かった。心配そうに私を見つめていた瞳は、輝きを増して私に優しく微笑みかけた。
彼女はやはり喋ることが出来ないようだった。何かを伝えようと辺りをきょろきょろとして、丘の先を指差している。

「・・・・・動くことが出来ないのよ」

次に彼女は耳の辺りに手をかざした。

「・・・ああ。音は聞こえるけど、あなたは喋れないんだよね?」

彼女は他にも何か言いたそうだったが、その後、悲しそうに頷いた。胸のあたりでなにかがじわりとした。不快感ではない、何か別のものだった。けれどもやっぱり私には分からなかった。どこかに連れて行きたかったのだろうか。喋れない相手は諦めて、私の前に座った。

 「私はあなたのことを見たことがあるわ。あなたは私と以前話したことがあるわよね?」

妖精は首を横に振った。私の勘違いだったのだろうか。他にも似た妖精がいるのか、と思った。
彼女は私を抱きしめてきた。その行動の意味はよくわからなかった。だけど、彼女は温かかった。
私は月明かりの下、ぽつりぽつりと彼女に質問を投げた。一人だけしかいないこと、ずっと昔からここにいること。ずっと私と居たことなど、明るく答えてくれていた。私は無機質な質問ばかりだったけど、彼女は微笑んで頷いたり、なんとか答えようと色々な仕草を試みた。
私は動くことが出来ず、彼女は喋ることが出来なかった。私の質問は、少なくなっていき、そのまま暫く私達は流れる星を見ていた。
そう、私には動く力さえ無いのだ。何かをしたいわけではなかったけど、ここから動かないでいいような気がした。そう思うとまた何か胸の辺りがじんわりとした。でもやっぱりこの気持ちは分からなかった。
私は彼女とまた別のお話をした。
彼女に名前をつけてみた。私は彼女の事を一方的に「スーさん」と呼んだ。鈴蘭畑にいる妖精さんのようだったからだ。私は彼女と何日もかけて話をした。とは言え、スーさんは口を開くことはなかったので、一方的に私が話しかけていた。私達は同じ景色を眺め、一言二言何かを話しては、スーさんはそれに応えた。私は思いつくことを色々と質問した。それしかすることがなかったからだ。私が話しかけると、その度、私に微笑みかけてくれた。笑顔を見るたびにもやもやするので、会話は長くは続かなかった。でも、二人でいる時間は一人で持て余していた時間を埋めるのに十分すぎるほどだった。眠りに落ちる前に私は気になっていた事を言葉にした。

「ここには私たち以外誰もいないの?」

目蓋を下ろす前に、スーさんの悲しげな笑顔を見た。スーさんは笑ってはいたが、目が笑っていないような、そんな気がした。視界が暗くなると、また
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