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メディスン・メランコリー 〜無名の丘〜
メディスン・メランコリー 〜無名の丘〜
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況になっても、私はそうは思えない。どうしてスーさんは消えなければならないのか、今わからないからだ。スーさんは何も悪いことはしていないはずなのに。
仲間も消えてしまったスーさんに、今からならもっと優しく出来るのに。私達は、ただずっと一緒にいたかっただけなのに。なぜそれが叶わない。これからずっと一緒に居て、同じ空間で同じ時を過ごして私達は生きていきたいだけなのに。
私はこの時気づいた。私が私である、唯一のこの感情。
私はスーさんが大好きだった。
その瞬間、私は確かに見た。スーさんはやっぱりいつものように笑っていたけれど、目がとても安らかに、そして幸せそうに笑っていたから。目に少しの涙を浮かべて。沢山伝えたいことがあった。こんな一瞬じゃ到底伝えることが出来ないくらいに。
私はスーさんが消える直前に、一言に込めて言葉に出した。

 「ありがとう」

スーさんは一輪の鈴蘭に私の手の中で変わっていた。
私は最後にスーさんを理解できただろうか、きっとこれだけでは理解できないだろうけど、どれだけの言葉を尽くしても足りないくらいに感謝していた。彼女は私を一人にしなかったから。だけど、彼女は居なくなってしまった。もう、彼女と会うことが出来ないことを考えると、寂しく、そしてとても悲しかった。
そうして作ってしまった心の緩みに、怨霊容赦なく私に襲いかかった。まだ残っているスーさんの記憶が無理やりこじ開けられていく。これは私だ。スーさんから見た私。それと、誰かが一緒にいる。

私は知っている。そう、私はこの人間を知っている。

この人物は、私の持ち主だ。私を捨てた人間だ。私を無名の人形とした人物だ。私の中に眠っていた昔の記憶が鮮やかに蘇る。私は彼女と共に、この無名の丘に来た。彼女が私を連れ出してくれたのだ。綺麗な丘があるんだよ、と。少し疎らに生えた鈴蘭の草原は、今とほとんど変わらない。そこで私は彼女と共にいた。
けれど、夜が明けると彼女の姿はどこにもなく、私は一人でただ岩に寄りかかり、座っているだけだった。幾度となく、日が沈み、また太陽が昇ることを繰り返していた。彼女はどこにいったのだろう。いつもどってくるのだろうか。この先はもう分かっている、この先何十年待ったって、彼女は戻ってこない。そうして最初に目を覚ましても、スーさんがいるだけで、彼女はいない。
私は捨てられたのだ。私は人間に捨てられたのだ。

人間は、罪を他責にし、平気で傷つけ、騙し、殺し合う。
私には、醜いものの塊のように思えた。そしてスーさんを、スーさんの仲間を、私を、傷つけた。彼らを許すことが出来ない。憎かった。どうしようもなく、憎いと思った。私たちを引き裂いた元凶でもあるからだ。

 「こりゃ完全にお前さんが怨霊化しちまってるねぇ」

声が聞こえると、記憶の世界から戻っ
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