第6章、その1:束の間の癒し ※エロ注意
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魚を押さえる掌を掠めた。
「ちょ、ちょっとキーラさん手付きぃっ!」
「は、はい?」
「包丁の持ち方危ないですって!!ちょ、ごめん皆、俺降りるから降ろして!」
『えええー』
「えええーじゃないから降ろしてって!!」
未だに慧卓で遊んでいた少年らは不満げな顔をしていたが、仕様が無いと互いを見遣り、木の根の近くに打ち込まれていた杭をずぼりと外す。それが重石代わりとなっていたのか、慧卓は重力のままに地面に着地する。子供らは悪戦苦闘しながら慧卓の縄を外し、そして外れた瞬間慧卓は疾走してキーラに近寄り、包丁を取り上げた。
「あのね、キーラさん。包丁はこうっ、こう持つの!」
「え、えっと・・・?」
「だからさぁっ・・・」
彼女に包丁を無理やり持たせ、背後から手を回してその手付きを固定する。間近に感じる彼の存在にキーラはどぎまぎとしつつ、その指示に従順となる。
「こうっ!じゃないと指切れちゃうでしょ?」
「は、はいっ」
「じゃぁ次は魚の捌き方ね。もう鱗の方は取れているから、次は内臓の処理ね。先ずはお腹の方に切れ目を入れてだ・・・」
背中越しから来る指示の通り、キーラはなるべく慎重に、時間をかけるように魚を捌いていく。俄かに身動ぎする度に慧卓の息が頸元や頭に掛かり、細かな息遣いや些かな色気を感じてしまう。意外とがっしりとした慧卓の体躯を身近に感じるというのはキーラにとって当に望外の喜びであり、非常に大切な出来事であった。
(や、役得って素晴らしい・・・!この温かみ、大切にしよう・・・)
キーラは真剣な声を装って返事をしつつ、慧卓には見えぬよう口元を蕩けさせた。横目でそれを見遣ったユミルはもう何もいわず、ただ己の指導へと神経を集中し始めていった。
「・・・なんだろう、凄くむかつく感じがする」
「アリッサ様。手が止まっておられますよ・・・全く、貴方も素直になったら宜しいのに」
「何か言ったか?」
「いえいえ何も。唯の独り言です」
「・・・随分はっきり聞こえる感じがしたが、まぁよかろう」
女の勘が働いたのかアリッサは不愉快げに眉を顰めつつも、再び書棚の整理に精を出す。リタは一つにやりとしながらも、彼女と同じように家屋の掃除を再開する。
それから大体三、四十分程経った頃合だろうか。その時になって漸く、全員分の調理が完了した。香ばしき魚が焼ける匂い、黒く焦がされ膨れた肌、熱が良く通った証である開きの白身と浮き上がった骨。確りと魚全身に火が通っており、どこを食べても美味しく頂けそうなほどである。『おおっ』という子供らの声を受けてか、臨時の調理師であるユミルは若干誇らしげであった。
「はい、じゃぁ皆」
『いただきます』
慧卓仕込の食前の言葉と共に、参加者は紅葉の絨毯に座りな
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