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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の3:青き獣
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 ソツらが消え去ったその日の昼間。大した仮眠も取れぬ内に慧卓は出立の準備を整え始めていた。昨日と今朝に晒された自分の醜態が幾度も脳裏を掠めて、心が落ち込む。自分の情けなさに恥じ入ったためかこの村に居ること事態がどうしようもなく許せなくなってしまい、連れの二人を急かして帰還の準備をしているという訳である。その最中にはミカが猪肉の余りを一心に食していた。
 屋敷の一角にある厩舎にて慧卓は腰に剣を挿しながら、ぼんやりと空を仰いだ。今朝方の大雨は幸運にも唯の通り雨だったようであり、朝食を終える頃にはすっかりと空は晴れてしまった。だがその降雨量は矢張り凄かったらしい。所々地面がぐちょりとぬかるんでおり、村の畦道には池が幾つも出来ており、無論それは屋敷の敷地内においても同様であった。慧卓が一晩を明かした厩舎の近くにおいても雨によって地面が穿たれており、その湖面に燦燦たる日光を反射させていた。
 ユミルは傍でグリーヴの緩みを直しながら慧卓を見遣って言う。

「なぁ。賢人に挨拶もろくにしなかったが、本当によかったのか」
「ええ、いいんです」
「だがそれでは此処に留めてもらった恩義に背くものではないか?今少し此処に留まり、彼らの役に立てるように働けば良いのではなかろうか?」
「キ=ジェが人間に対する差別を止めるからといって、村人が俺達を歓迎し続けるなんて在りません。その内、向こうからちょっかいを出してきます。そうなる前に俺達の方から出てった方が、領主にとっても都合が良いんですよ。要らぬ心配をかけさせないためにもね」
「・・・はぁ、また頑固になりおって」

 溜息が出るのも無理は無かった。ユミルの想像以上に、慧卓はあの醜態を引き摺っていたのである。嫌な思い出のある場所には長く留まりたくは無い。だからこそ出来るだけ早くおさらばしたいというのであろう。若々しく反射的な対応であるが、それが外交官の対応として相応しいかと言われれば、ユミルにとっては否と解答したくなるものであった。
 ユミルはちらと厩舎の中へと目を向けた。先に準備を整えていたパウリナが、ミカと名付けられたラプトルの眼前に葡萄を垂れさせていた。

「パウリナ、いつまでも遊んでいるな。もう出発するんだぞ」
「ほぉれほれほれほれっ。良い子だ、ミカちゃん。ほぉらお姉さんの葡萄を取ってみろぉ〜」

 無反応である。愛らしき黄金色の瞳にパウリナは心を奪われているようであった。色合いが自らが慕う主人と似たものであるのか、初めて会った割にはかなり親愛を込めて接しているようであった。目の前で降られる青い葡萄に、ミカは釣られて頭を振っていた。その鋭利な爪が俄かに地面に食い込んでいるのを見て、ユミルはどうにも心配な念を募らせた。

「・・・」
「さぁ、そろそろ出発しましょう。もうここには用がありま
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