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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の3:青き獣
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な動きを見せてラプトルは男らの怒りをかわす。一向に襲撃を仕掛けぬ事に疑問を持ったが、獣如きに舐められたという事がその疑いを怒りに塗り替えた。赤く照る草むらにラプトルは尾で軌跡を綴りながら跳ねて、茶色い水飛沫を飛ばす。その足跡は徐々に森の方向へと移っていき、男らもそれを追って行こうと振り向いて、瞬間、顔を一気に張り詰めさせた。
 青い肌と黄金の瞳。それが至る所から現れてきて、一様に男らを見詰めた。先まで対峙していた獣と同じように、或いはそれ以上に確りとした体躯である。群れの長らしき獣は口元が真っ赤に濡れており、艶かしき肉の糸を顎から垂らしていた。

「っっ、ま、待て・・・待ってくれ・・・」
『rrrrRRRRaaaalalala!!!』

 哀願を消すように長が一際高い声を出した。鷹のように鋭き一声は獣達の戦意を再び燃焼させ、俊敏な駆け足を命じさせた。目の前に釣り上げられた二人の人間に目掛け獣らは疾走し、碌な抵抗も出来ぬ彼らの肉質に爪と牙を突き立てた。
 数少なき仲間達が死んでいく光景を、慧卓らに対峙していた三人のエルフは、恐怖しながら凝視していた。猛禽と形容するに相応しき執拗さと凄惨さで、ラプトルの群れが二人の男を取り囲んで口を押し付け、引っ張り合う。この世のものとは思えぬ悲鳴がつんざめき、生々しく肉が千切れ、骨が裁たれる音が響いた。ラプトルが壁となっているため鮮血も彼らの末期も見えないが、嬲られる身の悲哀さというのが断末魔から理解できてしまう。蹂躙の重奏によって悲鳴は小さきものとなっていき、獣らの注意は次の対象に向けられるだろう。

「お、おい・・・」
「ああ、分かってる!!」

 生き残った男らは慧卓達の存在を忘れたように草原を駆けていった。只管に南に、脇目も振らずに逃げていく。ユミルと交戦していたアイ=リーンは仲間の醜態を見て思わず叫ぶ。

「き、貴様らァッ!」
「しぃっ!」
 
 唸る剣閃にアイ=リーンは意識を再び集中しようとした。だがその一瞬の油断こそが命取りであった。ユミルの渾身の一撃を咄嗟に防いで身体を引くも、うっかりと踏みしめた泥に足が深々と嵌まり込んでしまう。故に態勢が不安定になるのも仕方の無い事であり、ユミルの斬撃を防いだ格好で地面に尻を突く。足首が捩れて痛みが走り、ユミルの次の一刀で男の手から剣が弾き飛ばされる。くるくると回った剣が深紅の光を反射して、泥濘に塗れた草に剣先をめり込ませる。その音に反応して、骸を貪っていたラプトル達が一声にアイ=リーンの方を見据えて、口元から血肉や生き血を零した。
 不意に噛み合った視線にアイ=リーンは慄き、泥濘から足を引き出そうと暴れる。眼前の敵など意も介さぬ必死な様にユミルは呆れ、剣を肩に担ぎながら慧卓らの下へと歩いていく。どこか事情を理解しているかのような余裕ぶりは
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