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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の3:青き獣
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く。そしてユミルに気付かずに疾駆していった男を背後から襲撃した。余りにあっという間の出来事でありユミルは戸惑いを覚えた。

(お、俺を避けた?)

 疑問に思う彼に向かって雄叫びが降りかかる。男らが二人、それぞれ先を争うかのように迫っていた。舌打ちを鳴らしながらユミルは立ち上がり、身を退きながら相手を見据えた。たかが殺人や敵の殺意如き怯むような闘志は、この歴戦の狩人には無縁のものであった。
 ユミルが死闘に突入していく一方で、慧卓らは徐々に森の出口へと近付いていく。 
 
「早く走って!!」
「分かってる!」

 慧卓は先導する元盗賊の俊敏さに必死に追従する。彼女に続いてミカが、少年が、そして慧卓が鬱蒼とした森から脱した。紅の優美な夕焼けが草原を照らし、その青みがかった葉に黄金の光を与える。幻想的な光景ではあるが、その雰囲気を剣呑な蛮声と剣戟の音が掻き消す。ましてや泥道を駆ける幾多の足音など無粋の極みであるが、命の危機ゆえにその無粋も許されるものであった。
 慧卓はちらりと振り返って、後悔する。彼らの後を追うように幾多ものエルフがばらばらに疾走しており、一様に剣を抜いている。数はたったの五人であるが、まともに抵抗する事など夢のような話であった。慧卓が前を向こうとした瞬間、泥濘に隠れた草に足を引っ掛けて、前のめりに倒れこむ。

(やべっ!?)

 咄嗟に顔を横に向けるが泥道に真っ直ぐに倒れてしまい、左の頬と膝が強く擦れて、擦り剥けるのが痛みによって感じられた。苦悶に唸るが慧卓は直ぐに立ち上がって抜刀する。最早逃げれる状態ではなくなってしまった。
 仲間の悲鳴を聞きながらも慧卓は後ろを振り返り、自分に駆け寄る最も近き敵を睨む。そしてやけくそ紛いに下段から剣を振り抜いた。

「っっぉらあああっ!!」

 相手もまた上段から剣を振り抜くが、一瞬早く、自分の剣が相手の横腹を深く切り裂いた。ただの偶然の所業であるが男は瞠目して地面に倒れ込む。斬った瞬間に柔らかなものを裂いた感触が伝わったが、恐らくそれは臓物であろう。
 それの止めを刺す間も新たな敵が接近してくる。直ぐに剣を翳して剣閃を防ぐも後ろにたたらを踏んでしまう。踏ん張ろうとした瞬間切倒した男に足を掴まれて地面に倒れこむ。眼前に迫る男目掛け、慧卓は咄嗟に剣を投げ抜いた。
 
「ぐっ・・・おっ・・・」

 男の胸部に剣が突き刺さり、呆気なく膝を突かせて前のめりに倒した。慧卓は男の手を幾度も蹴りつけて、その指を折った末に漸く解放される。しかしその時には既に新たな敵が追い着いていた。

(こ、ここで終わりか・・・?)

 蛮声を轟かせて疾駆して来る敵と、突き立てるように構えられた凶刃を見て一瞬覚悟を決めかける。しかし慧卓を真後ろから飛び越した青い影が、男の腕に一気
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