第四章、その5の3:青き獣
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ソツは「はっ」としたように村の方を振り返った。アイ=リーンという男は、ソツに対する忠誠心も度が過ぎたものがあって、常日頃から乱暴沙汰に介入しがちなエルフである。昨晩の晩餐会に出席した中で最も苛烈に慧卓を睨みつけていた男でもあった。その彼と彼の臣下共々が居なくなった理由など直ぐに検討がついた。主君が受けた屈辱を晴らすための仇討ちである。対象は即ち、慧卓だ。
「っ、急ぎ行進を止めてーーー」
「ソツ様!貴方は民草を率いる長なのです!どうか御自重下さい!既に我等は魔獣の生息域にも足を踏み入れております。この場で留まるは危険であり、まして下がろうにも何処にも行けませぬぞ」
「・・・そうであった。追放された身であるからな・・・」
村からの追放とは、即ち村の領内に立ち入る事を禁ずるという意味だ。慧卓らが入っていく森への入り口も、際どいながらも領内と認識される場所であり、ソツらが救援に行くというのは事実上不可能の事であった。彼らには彼ら自身の手で吹き荒ぶ火の手を払い除けてもらうより他が無い。
(ケイタク殿、どうか御無事で・・・)
自分に出来るのは唯無事を祈るのみ。東の小さき森の見た目とは異なるほどの鬱蒼さに負けぬよう、そして迫り来る脅威に打ち克つようソツは慧卓らの平穏無事を思いやり、ふと近くの草むらに残る大きな足跡に気付いた。人間の掌ほどのサイズがある巨大な鉤爪が特徴の足跡だ。それが幾つも東の森の方へと続いている。
ヴェロキラプトルの群れが此処を通ったのだ。足跡の明瞭さから、つい二・三時間ほど前に出来たものだ。更にその数を見るに、群れは少なくとも8匹は居るであろう。ソツは邂逅を免れた事に一先ずの安心を抱きながらも、慧卓らの身の安全に対して不安を募らせる。風によって右へ左へ揺れている森はその薄暗き大口を開いていて、帰還の途につく人間達を歓迎しているようにも見えた。
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薄暗き森の絨毯は、泥濘交じりの難航の道と化していた。辺り一面に繁茂する雑草が、天からの冷たい恵みによって、天然の絨毯に滑らかさを付け加えている。枯葉や土と相混じってそれが泥濘にも似た歩き難さを演出しており、慧卓らの歩幅は自然と縮まってしまう。既に何度か転びかけているため身体の彼方此方が濡れて、落葉の破片などがこびり付いていた。なるべく困難そうな場所を避けようとするも地表にある木の根は絨毯と同様に滑りやすく、また高さがあるため跨ぐ度に疲れてしまう。歩き易さを求めて迂回をするなどは論外の行為である。となると慧卓らに残された手段としては正面突破以外に何も残されていなかった。
森に入ってから既に二刻ほどは経過している筈であった。枝葉の間から見える空の青々しさに、俄かに赤が差し始めているからだ。湿気溢れる森も昼
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