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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の3:青き獣
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 否である。女々しき心中は未だ穏やかならざるものであり、ミカの事など思考の片隅にも入っていないようであった。生真面目ゆえに、一度ショックを受けるとそれ以外考えられなくなってしまうのだろうか。先を行く少年の小さくも逞しき足取りを追いながら、慧卓は只管にこの村から脱する事だけを考えているようだ。天気のように移り変わりの多い心は、今は頭上のそれとは正反対に、厚い沈鬱の雲が掛かっているようであった。
 雨後の露に濡れた森へと向かう一行を追うように、距離を空けて追尾する集団が居た。数は十五人であり、全員が剣を携えたエルフであった。物騒な目付きをして慧卓の背中を睨みつけながら行進しており、乱暴に地面を踏み鳴らしていた。気配に敏感なユミルはその存在を直ぐに察知したのだが、村内である以上迂闊に手出しが出来ぬと考えて足を俄かに速めるだけに留めた。双方の間の距離は4,50メートルほどであろう。これが5以下となった瞬間、己の手と身体は異民族の血で穢れるだろうと、ユミルは一人覚悟を決めた。


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 朝早くに村を離れたソツ一向。道なき草むらをゆっくりと歩き、足に感じる水滴の冷たさに耐えている。急な出立であったというのに臣下はおろか、その家族一同が既に準備を整えていたのはソツにとって驚愕であった。『いずれこうなるだろうと予想していた』とは臣下の言であるが、それほどまでに自らと父の対立は表面化していたのであろうか。まだまだ未熟な点が多く精進の必要有りと、ソツは改めて己の決意を固めた。彼を慕って追従するは、凡そ百人程度の大所帯の列である。ソツの想像以上に大勢の者が村から出て行ったが、村はこれで人が余る状況から一転、人手不足へと陥るであろう。しかし改革紛いの事をやって自らの反対派を一掃したのであるから、これ程度の負担など父には飲み込んで欲しい所であった。
 彼らが目指すは段々と全貌を露にする、堂々と聳え立つエルフ自治領が霊峰、白の峰。切立った崖が幾つも積み重なっているかのような険しき稜線の数々には、既に白い笠が降りて夏に似合わぬ雪の冷気を届けてくれる。あの霊峰の麓か、或いはその山中に村落があるというのだが、そこまでの道中が安全であるものか不安な所であった。

「ソツ様、今宜しいでしょうか?」
「なんだい、何か起こったのか?」

 臣下の一人が馬上の彼に近付いて言う。随分と険しき表情であった。

「アイ=リーンがおりませぬ。彼の部下、凡そ十数名もです」
「!事前にちゃんと確認しなかったのか!?」
「出立時にはおりましたっ。村の出口での点呼にも反応しておりました。おそらく、出立直後の慌しさに付け込んで行方を眩ましたとしか・・・」
「・・・確かその者達、ケイタク殿の事を・・・」
「はい、非常に憎んでおりました」

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