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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の3:青き獣
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 常以上に気迫ある問い詰めであるが、紅潮した頬に涙目+上目遣いであるのがユミルから反省の意を奪っていた。あざとさのある愛らしさに、ついついと本音が毀れ出た。

「・・・その、可愛かったから、つい見詰めてしまってな」
「っっ・・・」

 パウリナの頬にさっと赤みが差す。照れ隠しなのか視線を直ぐに逸らし、左手で右手の指を握っては擦っている。

「そ、そうでしたか・・・なんか騒いでごめんなさい」
「ああ、いやいいんだっ、謝る必要など無いぞっ?俺こそ申し訳ない」
『・・・』

 どことなく気まずげで生暖かい空気が流れる。互いに気恥ずかしさを感じながら視線を逸らしている様は、中年男性と成人女性の姿とは思えない。例えるならば恋する女学生と案外初心な体育教師、そんな感じがする光景であった。
 当然出発を急いていた慧卓はその光景に苛立ち、腹いせとばかりに地面に転がっていた石ころを、直ぐ近くあった木に向かって強く蹴り付けた。石が木の幹にぱしっと当たり、雨露に濡れた木の葉っぱが揺れる。途端に、沢山の水滴が慧卓とミカに降り注いだ。

「おぶぉっ!?」

 突如として冷たい思いをした慧卓。出立前だというのに頭がずぶ濡れとなってしまう。とばっちりを受けたミカは肌をぶるぶると震わせて飛沫を払う。そして威嚇するように歯を剥き出しにして蛇のように唸った。

『rrrRaaaa・・・』
「ご、ごめん、ミカ。ほら皆。い、行きますよ?」
『・・・ぷっ』
「何笑ってんですか!!行きますよ!?」

 慧卓はそう行って屋敷の門へと我先に進んでいく。雨除けのロープを靴底で叩くようにのしのしとした様子であった。門の外には村まで付いてきたエルフの少年が待機しており、慧卓の姿を捉えるとくるりと踵を返し、タイガの森へと続く畦道を歩き始める。眩いまでの光を煌かせる池を踏みつけ、道の脇に飛沫と泥を飛ばした。ぬかるんだ地面にそれぞれ違った足跡が次々と出来ていき、土色に汚れた水がそれに流れ込んでいった。 

「ねぇ御主人、ミカも一緒なんですか?」
「ケイタクが言うにこいつは群れから離れた奴かもしれんのだが、その群れが見当たらぬ以上村に放置するわけにいかんようだ。まぁ理解できなくはない。群れが襲撃してきたら大変んだからな」
「だからってタイガの森に引っ張るってのも、問題ですけどねぇ」
「まぁ、そこは奴が何か考えているんだろう」

 のしのしと軽快に進む青い爬虫類系の背中を見ながら二人は囁き合う。元はといえば慧卓が引き取った動物であるため彼女についてどうこう言う権利は持っていない。そんな二人の疑問の中心に居た慧卓は、果たしてまともに解答を容易できているのであろうか。

(あぁーあ・・・本当に散々な目に遭ったよ・・・もう二度とこの村に来ない。うん、来ない)
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