暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の3:青き獣
[12/17]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
びには偽りが無いものであった。このままエルフの森に連れ帰ろうとしても、今度は自分達が彼らの餌に成りかねない。となると、矢張りここでお別れのようである。

「何か彼女に言い残す事とかあります?」
「言葉も分からん獣相手だぞ?何を言っておるのだ?」
「なんかものをあげればいいと思いますよ、形に残るものとか」
「ありがとうございます、パウリナさん」

 慧卓は直ぐに思いつくものがあったのか、ミカの方へと近付いていく。パウリナがにたりとして主人を見る。

「御主人は本当にロマンがありませんよねぇ」
「うるさい、黙れ」

 黄金色の瞳が己へと向くのが慧卓には分かった。猛禽類に相応しき鋭い目付きであるが、丸みを帯びた瞳であるがゆえに可愛らしさが窺える。彼女が纏う雰囲気もまた、危険の危の字も見られないほど穏やかであった。
 慧卓は歩きながら投擲した己の剣を回収する。地に伏せるエルフは皆息絶えており、抵抗は全く無かった。そして剣筋をそっと、自分が羽織るロープへと滑らせた。下半分をばっさりと切り裂き、その茶褐色の布切れを彼女の細く、丸い頸に巻いていく。まるでマフラーのように布が巻かれ、頸元で蝶々に結わかれる。身動ぎもせずに己の好意を受け入れてくれたミカの頬を撫でて、慧卓は言う。

「これでお別れだな。短かったけど、愉しかったよ」
「・・・・・・またね」

 どきりと、思わず心臓が脈打ってしまい慧卓は少年を見遣った。思いもよらぬほど清廉さのある声であり、消え入りそうでありつつも確りとした芯を感じさせるものである。なんと記憶に残る声であろうか、普段から出さないのが全くもって勿体無い。
 ミカは二人の若人を見遣り、背を向けてそっとその顔を尻尾で撫でた。少し硬さのあるそれはくすぐったさのある感触であり、慧卓が瞬きをした頃にはミカはゆっくりと歩を仲間の下へ向かわせていた。数歩歩いた所でミカは頸だけで振り返る。

『・・・rrRaa』
「ほら、振り向かないで。さっさと行ってやれ」

 手を振って笑みを浮かべる慧卓と、何もいわずに後ろ手に見遣ってくる少年。二人へ暫く目を置いた後、ミカは今度こそ振り返らずに走っていく。仲間らの軽やかな呼び掛けに彼女もまた言葉を返し、長と思わしき大きなラプトルの頸に、自分の首筋を摩るように当てた。煌びやかな夕景の中で睦ましく青い獣らは声を掛け合い、足を揃えて森の方へと歩んでいく。迷子になった小さき仲間を見つけ出した彼らは、これから元の塒へと戻る事であろう。そこでミカが健やかに成長する事を、慧卓は願ってやまなかった。

「あーあ。行っちゃったな。凄い短い付き合いだったけど、やっぱり別れは寂しいもんだな」
「・・・」
「お前とも余り別れたくないんだよな。結構優しくて、動物思いな奴だってのが可愛いし。それにエル
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ