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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の3:青き獣
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、アイ=リーンから見れば何と慈悲の無い態度であったか。

「ま、待て・・・助けてっ、助けてっ・・・」

 そう言いながら漸くの事で足が引っ張り出された。何とかして逃れようと立ち上がり、痛む足首を懸命に叱咤して男は茂みを歩く。赤光に照らされる顔には脂汗が浮かび、苦痛の息が漏れていた。ふと振り返ったユミルが見たものは、足を引き摺って逃げようとするエルフに近付いていく、ラプトルの群れであった。
 これは駄目だな、と思わず純粋に人の最期が予想されてしまった。ラプトルの群れはアイ=リーンに近付いていき、長と思わしき一際大きい獣が彼の背中に鉤爪を突き刺した。

「っっっっぁぁっっ!!」

 正に悶絶するかのように男は悲鳴を漏らす。肉筋を鋭利な爪はあっさりと貫いており、十中八九臓物まで達している。ラプトルは男の独特の尖った耳に爬虫類のような口を近づけて、赤く血塗れた舌をちろちろと這わせる。唾液とエルフの血肉で穢れた舌は肌を伝い、やがて男の剥き出しの首筋へと達する。太さもさる事ながら引き締まった肉筋であり、頚動脈の浮き上がりには熱篭った汗が流されている。どことなく甘美な味わいがして、ラプトルは喜色を表すように瞳孔を萎縮させる。
 息もならぬ緊張が男の背筋を走り、びりりと悪寒が彼の背を伝い、震動が爪を覆う。その瞬間、堰を切ったようにラプトルが男の首筋に一気に噛み付き、他のラプトルも男に群がっていく。悲鳴すらあげられずただただ肉体が食い千切られていく筆舌にし難き激痛と衝撃の中、男はラプトルの瞳に燃え滾る憤怒のようなものを感じ、流血の池の中に沈み込んでいく。

「パウリナさん、大丈夫?」
「・・・うぇっ・・・きっつい・・・」
「ケイタク、無事か・・・ってまた吐いてるのか」
「はぁ、斬るのと食べるのとでは違うようで」
「ぜんっぜん違いますって・・・おえぇっ」
「ちょっ、危なっ!」

 凄惨な御食事を見てパウリナが吐瀉物をぶちまけ、慧卓が慌ててその範囲から離れる。彼と入れ違いにユミルが彼女の背を優しく摩る。ミカは少年に顎辺りの痒みを摩られて上機嫌であった。
 早めの晩餐が終わったのはそれから二分くらい経った後である。草原でエルフを三人、森で数人を喰らい尽くした、或いは嬲り殺したラプトル達はミカの方を見遣る。

『rrRRaar』
『rrrraar』

 遠くからの呼び掛けに反応して、ミカは可憐とも思える高い声を出した。群れに反応した声は紛れも無く、仲間に対する思い遣りの篭った温かな声であった。

「・・・なぁ、あいつを帰すべきじゃないのか?」
「まぁ、そうですよね・・・」

 慧卓はそう言いながら立ち上がり、ミカを見詰める。仲間を見詰めて純粋に喜んでいるのだろう、瞳はきらきらとして曇りが無く、身体の血の穢れがあろうとその喜
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