第四章、その5の2:思い通りにいくものか
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てきた。
「そういえば今日は父上が何か発表するらしいのですが、ケイタク殿は何か御存知ですか?」
「・・・いいえ」
「そうですか。・・・もしかしたら、あれかな?・・・だとしたら兄上ではなく、私の方が適任・・・いや、そうあるべきでは・・・」
ソツは口元を隠して父親をそっと見遣る。彼の父であり、この村の領主であり、そして賢人会の一員であるキ=ジェはその視線と、兄であるホツの視線に気付いたか、椅子を引いてすっと立ち上がる。途端に列席する諸人の視線が彼に注がれる。
「皆、聞いて欲しい事がある。暫し食事の手を止めてくれんか」
からからと、匙やフォークを置く音が聞こえる。一拍遅れて最後の音が鳴り終わるのを待ち、キ=ジェは泰然自若とした姿勢で述べた。
「今日で俺は63歳となる。この村の領主となって10年、賢人会に入会してから五年だ。長きに渡り俺はエルフ民族の為に身を尽くしてきたが、最近どうにも昔のように身体の自由が利かなくなって来た。いい加減、後継者を決めたいと思う」
突如とした宣言。だが驚きの声も表情も無い。『遂に来たか』といわんばかりに列席者は顔を引き締めるばかりだ。無論パウリナはいきなりの事態の展開に目をぱちくりさせていた。
キ=ジェは為政者に相応しき覇気のある声で言った。
「俺の後継者となるからには相応の待遇を約束しよう。先ず俺の財産と土地を半分承継させる。俺の農村も農民も全て含めてだ。後の半分は俺が死んだら承継させよう。次に俺の兵についてだが、俺が動ける間は俺か、或いはニ=ベリ様の命令によってのみ行動できる。だが俺が前線に立てぬ状態となれば、その時は指揮権を後継者に譲る。税も村の規則も変えん。そして最後であるが、この村は今まで通りニ=ベリ様の御庇護の下に暮らすのだ。これについては何人であろうとも叛逆する事はならん。
以上だ。ここに居る全員がこの遺言の証明者だ。それには、この王国の調停官補佐役殿も含まれている。文句はあるまいな?」
諸人の大半が敵意の視線を慧卓に向けた。それだけに留まるのは彼らが表向きには納得しているからに他ならない。キ=ジェにもその意思が伝わったのか、うんうんと首肯し、これまで以上に張りのある声で宣言した。
「では、後継者だ。俺が後継者を選出するために必要と考えたのは、即ち勇猛果敢たる武の命!かくも乱れし情勢に敢然と立ち向かい、エルフ民族たる闘志を余す事無く発揮する勇士である!他との融和などという小細工を弄さぬ、堂々としたエルフこそが、俺を継ぐのに相応しい!
・・・それはお前だ、ホツ」
矢張りな。慧卓は内心でそう呟きながらホツの顔を見た。前置きを言う前から既に確信の笑みを浮かべていた彼は、今し方初めて知ったといわんばかりに感激の表情を浮かべていた。彼は勝利の感触を
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