第四章、その5の2:思い通りにいくものか
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理性であるのか、或いは本能であるのか。慧卓には判断をつける勇気が無かった。
とんとんと、誰かが己の肩を叩く。慧卓が顔を向けると、もう一方の隣席に座っていたソツが、昨日にも見せた優しき笑みを浮かべていた。
「ケイタク殿、御機嫌いかがです?」
「ソツ様・・・」
胸がずきりと痛む。余程酷い顔を浮かべていたのであろう、ソツは心配げに眉を垂れさせた。
「あの、あまり顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?水を持ってこさせましょうか?」
「お気遣い有難う御座います。ですがそのような事をなさらずとも、この場で蹲ったりはしませんよ」
「いやいや、そういうのは溜めておくと余計に害になりますよ。おい、水を一杯彼に」
「・・・すまない、ありがとう」
彼の指示によって給士が水を一杯運んできてくれた。慧卓はそれを一息に飲み干し、静かに息を漏らす。その息に次いでソツは慧卓を慰めるように、或いは励ますように声を掛けた。
「王国の騎士、それも調停官補佐役という大任を預かる身というのは、私が思っている以上に苦労する職のようですね」
「ええ。本心ではやりたくないのに、建前上やらなくてはならない。そんな職務がある。それを先程まで痛感していた所ですよ。お食事の最中に、申し訳ないです」
「いえいえ、何もそれは謝るような行為ではありません。寧ろそれは立派な行為ですよ。社会の礎の一角となるに相応しき御仕事です。雪も積もれば、大山となって土を固めますからね」
「願わくばそれが足元から崩れないよう祈るばかりです。・・・いや、祈るだけでは何も始まらない。崩れぬように先手先手を打たなければならない。そのための責務が私にはある」
「皆、それは同じでしょう。それぞれが属する社会のために、一粒の石となって大地を作り上げるのです。・・・私は、まだまだ若造だからその役目を負う事は出来ませんが、でもいずれはそうなりたいです!父上のように、エルフの為に己を尽くしたい」
力強い言葉に、慧卓は知らず知らずの内に小さな笑みを零した。気力充実した彼の言葉は、何時の日か慧卓が王都で紡いだ言葉のそれと、同等の力強さを持っていたのだ。己の希望溢れる未来を信じて疑わぬ言葉であった。今の自分がそんな言葉を出す権利があるのか、慧卓の不安は募る一方であった。
ソツはその笑みのまま、慧卓の心を更に掻き乱すような言葉を掛けた。
「何時かその日が来たら、ケイタク殿。私を友誼を契っていただけますか?人間とエルフの架け橋となる、強い友誼を」
「・・・ええ、その日が来たら、必ず」
「ありがとう、ケイタク殿」
一転の曇りの無い晴れ晴れとした微笑であった。慧卓の心はますます締め付けられる一方であった。この青年の笑みを壊す事は、或いはエルフに対する冒涜ではないか。そんな気さえ生まれ
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