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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の2:思い通りにいくものか
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ど与えない。初めからこの要望を否定する権利など無いといわんばかりに、キ=ジェは力強い笑みを浮かべていた。

「返事を、ここで聞きたいのだが」
「・・・承知致しました。御望みの成就のために、ささやかながら一助を加えさせていただきます」
「それでいい。台詞は自分で考えておくのだな。恨みが足枷にならぬように」

 陰湿な笑みが皺がよった口元から毀れ、慧卓に罪悪感と無力感の発生を強いらせる。ほんの少し、ほんの少し勇気があれば老人の要求を断る事が出来たのかもしれない。だがこれは仕方の無い事なのだ。調停官補佐役が欲するべきは賢人との平和的で協力的な関係であり、一青年の未来は必ずしも必要ではない。これは自らの職責の成就のためである。
 慧卓が内心で言い訳を募らせる度に眉間に皺が寄せられ、口がきりっと引き締められる。彼の胸中を悟ってか、キ=ジェはにたにたとして彼を蔑視していた。己が犯すであろう事の重大さを、知った上で無視しながら、彼は人間に対する優越心に浸っていた。



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 そしてその日が訪れた。キ=ジェ当人が主賓を務める館の晩餐会だ。大きな食卓を囲ってそれは行われており、皆が料理や酒に舌鼓を打っている。出席者は領主とその息子二人、彼らの主たる臣下、そして村の村長や一部の村民。名目上王国から来た外交官を家族一同で歓迎するための歓迎会とうたっているが、実際それは自分の権威を示すだけの会だという事は、会場に集まったほぼ全員が知っている。だからこそ出席者の大半が取ってつけたような笑みを浮かべているのは不自然ではない。
 例外も勿論存在する。料理人が一両日煮込んで作り上げたという、熊の肉を使ったスープを啜るパウリナだ。木の皿に盛られたスープには地元で収穫されたであろう根菜を一口大に刻んだもの、そして煮込まれて黒味を帯びている熊肉が入っており、此方も同様に一口大に切られている。汁からは湯気がほくほくと上がっており、早目に食べねば損であると伝えてくる。出汁がよく取れているのであろう、パウリナはさも幸せだという笑顔を浮かべる。ちなみに此処までの案内役を買って出た少年エルフは、別室にて睡眠中である。なんと自由な奴であろうか。

「ケイタクさん、どうしたんです?これ美味しいですよ、これ。熊の肉に出汁が染み込んでて、ずずず・・・あぁ、舌が蕩けるんです」
「そ、そうなんだ。でも俺はいいや、あんまりお腹減ってないし」
「駄目ですって、こんな美味しいのここで逃す理由なんてないですよっ!はい、ケイタクさんのも取っておいたんで、食べて下さいね。ユミルさん、これをケイタクさんに」
「ああ。ほら」
「う、うん。ありがとね、ゆっくり味わうよ。あ、啜るのは行儀悪いから止めた方がーーー」
「ずずず・・・」
「・・・いいと
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