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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の2:思い通りにいくものか
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いて我等を御守り下さっている。近くの村は軒並みイル=フード様の隷下にあるらしいが、なに、情勢さえ変われば直ぐに我等の味方となろう。風見鶏の爺共にはそれがお似合いだ」
「すると賢人殿は此度の情勢においては、ニ=ベリ様に加担なさるというわけですか」
「いかんか?」
「いえ、私はそのようには申しておりませぬがーーー」
「話はまだある。聞け」

 考えてみればキ=ジェという男は老人であった。老人は己の話が中断させられる事を嫌うものだ。どこかの誰かが言った陳腐な台詞を思い出しながら慧卓は聞き手に徹する。

「兄のホツは幼き頃よりニ=ベリ様の御心から武を学び、研鑽を重ねた未来あるエルフ男子よ。俺の跡を継がせるにはこれ以上無い程の逸材だ。だが弟はそうではないらしい。人間との融和を常日頃から訴えているが、それは俺の遣り方とは違う。武をもって解決せねばならんのに、なぜ言を労する必要があろうか。
 それ以上に不満なのが、弟に一定の支持があるという事だ。俺の村だというのに、血迷った奴が多い事よ」
「弟君は聡明な方でいらっしゃいます。あの御方を支持する方は、きっとそのような所を好いておられるのでしょう」
「ならん。俺がこの村に求めるのは頑固たる、エルフによる統治だ。人間共の介入が起きるというのは、たとえ可能性の段階であろうと是認できん。それを招き入れるというのも、同じだ」
(・・・たとえ肉親でも認めないし逆らえばただでは済まさない、って言いたいのかね、この人は)
「俺は今年で63歳となる。そろそろ次期後継者を決めても良い頃合だ」
「御話を御伺いするに、悩む必要は無いようですね」
「ああ。だが憂いを払うに越した事は無い。そこで貴様の出番だ」

 ぎろりと、男は剣呑な光を目に浮かべた。否応無しに慧卓の頭に嫌な予感めいたものが走る。

「明日の晩餐に後継者の名を発表し、俺の財産と土地の半分を承継させる。貴様にはそれを保障してもらいたい」
「保障といいますと?」
「なに簡単だ。俺が選出した男がいかに有能な者かを声高にうたってもらえればいい。外交官としての言葉は重きと説得力があるからな、他の奴等に一応の理解を齎してくれるだろう。
 そして貴様はそれを言った後に、選ばれなかった奴を徹底的に侮辱しろ。人間との融和を目指す愚の輩を貶し、絶望させろ。それが出来れば俺と俺の村は、まぁ少なくともお前とは表面的に対立する事は無い。確約しよう」

 こういう時に限って、なぜ嫌な予感というものは当たってしまうのだろうか。先程まで笑みを交わしていたエルフの青年に対して、この老人は『そいつの未来を断つ協力をしろ』と言っているのだ。同年代の、それも自分よりも明らかに聡明であろう青年の希望を断つ事など、普通は容易に決断できない。
 だが目の前の老人は慧卓に悩ませる暇な
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