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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の2:思い通りにいくものか
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が開いているようであり、光の無い瞳で揺れる虚空を見詰めていた。死体から薫る血の臭いに、小さな恐竜は頭を挙げてそれを興味深そうに見遣っていた。
 ソツは彼らが立ち去っていくのを見詰めて、慧卓に向かって謝罪する。

「御無礼、どうぞお許し下さい。先日に起きました些細な一件から、兄はずっとあのように不機嫌なのです」
「御話は窺っております。我が国の民の狼藉、深く謝罪いたします」
「いえいえ。その狼藉を犯した者達はひょっとしたら貴方の民ではなく、元は帝国から流れてきたものかもしれません。どうかそこまでお気になさらずに」
「ありがとう御座います。ところで、領主様からお聞きしたのですが先日から狩に行かれたとか?」
「ええ。兄弟仲良く、こうやって熊狩りを愉しんでおりました。中々かわいいでしょう?エルフ領内の熊は小ぶりなものが多くて素人でも狩り易いのです。それに身体も締まっていますから、肉を焼けば中々に美味なのです」
「凄いですねぇ・・・」

 遠くなっていく熊の背中を見ながら慧卓は率直な感想を漏らす。自分では到底あのような獣は狩れないだろう。目の前の優しげな青年は自分以上の胆力と武力の持ち主らしい。素直に感嘆の念が浮かんでしまった。

「こうやって狩を楽しめるのも、ここがタイガの森に近いからでしょうね。遠方ではそれなりに危ないと聞いております」
「件の、情勢の変化ですか?」
「ええ。私達が居た丘陵の向こうには幾つか村があるのですが、それらの村は全て父上と対立関係にあるのです。遠からず小競合いが起きるかもしれません」
「そうなのですか。つかぬ事をお伺いしますが、御父上はどちらの側に立っていらっしゃるのでしょうか?」
「紛う事無く、ニ=ベリ様です。イル=フード様の立場に立っていたら、今頃この村はもっと開放的になっていたでしょうね。私から言わせれば、あの衛兵上がりの武人が常日頃から訴える未来というのはどうにも信用が置けないのですが。おっと、今の言葉はどうか内密に」

 慧卓は驚きと共に首肯する。人目があるかもしれないのに領主たる父と意見を違えるのを憚らないとは、一体どういう事なのだろうか。このような辺鄙な村では領主が絶対君主であり、たとえ肉親であっても逆らっては命に関わるというのが慧卓の偏見であったからだ。あの御仁を思い起こすにバラしたら本当に洒落にならないと理解できたのか、慧卓は一・二も無く頷く。
 そんなこんなで話をしていると、館の方からエルフの兵士が駆け寄ってきた。

「ソツ様、兄君が御呼びです」
「分かった、直ぐに行くから。・・・ところでケイタク殿。そちらの獣は、いつ頃から?」
「ああ、こいつですか。なぜか気付いたら隣にいたんですよ。ふてぶてしい性格してますよね?」
「確かにそうですね。ですが御注意を。こちうはラプトルの子
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