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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の2:思い通りにいくものか
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る事が出来るからです。賢人である父と政治的な対立を生まず、その上外交官としての勤めを全うでき、御友人に無事に帰す事が出来る。
 父上と同じです。あの人も領主であった当初から、そんな風に考えて領民や私達を守ってくれました。最も、父の場合は建前と本音が一緒というのが、可笑しな所なのですがね」

 何とも理解し難い光景であった。人格や人権を徹底的に踏み躙って自分を実家から追い出す原因を作り上げた男、しかも情勢から考えて敵対視してもいい人間に対して、このエルフの若人は一切の恨みを抱いていない。それどころか庇う様子すら見える。可愛らしき寝顔を見る事によって癒されていた慧卓のプライドに、音が伴って皹が入る。目の前の菩薩のような心を持った青年に何とも言えず、慧卓は鉄面皮にも似た神妙な顔となった。
 ソツは尚も続ける。

「貴方は御自身の職責を全うされただけです。組織に従属する人間としては、とても当たり前な事をしただけで、私だって同じような経験もあります。でもそれを後悔する事はあっても恥じたりはしません。ケイタク殿は恥じているのですか?」
「・・・俺は・・・」
「いえ、口にしなくてもいいですよ。とても簡単に下せる答えではありませんから。私は貴方が本心から言った言葉ではないという、その意思を尊重したいと思っています。
 それにしても、父上の果断即決ぶりには困りますね。宣言した直後にお前は要らないからって。まぁ父の事ですから、そのうち『家の敷居を跨ぐな』くらいは言われると思ってました。まさか配下とその家族共々出て行け、などと言われるとは思ってなかったのですが。ハハハ」
「・・・これからどうなさるのです?」
「そうですね。取りあえずは白の峰の方まで行ってみますよ。噂では、あの霊峰の近くに村があるとの事です。とても逞しい方々がお住まいのようだ。ですから私共もその村を頼りに進んでいく事になりましょう。先行きは不透明ですが、なんとかやれない事はありません、希望は、まだ手中にあります」

 この期に及んで、ソツの瞳にはまだ希望の光が輝いている。明日に続く己の理想を信じる、不屈の光である。傷心の慧卓には直視するのも辛い光であった。
 ソツは馬の綱を引いて厩舎から出ようとして、ちらりと慧卓を見遣った。

「そろそろ行かなくてはなりません。皆を待たせているものですから。すみません、ミカを親元に帰せなくて」
「いえ、私が彼女を帰しますから、どうぞ御安心を」
「分かりました。・・・またいずれ会いましょう、ケイタク殿」
「・・・御武運をお祈りしております、ソツ様」
「そちらも。今度会った時にこそ、友誼を契りましょう」

 慧卓の心にまた新たな皹が入り、顔がくっきりと歪んでしまう。下手糞で歪な笑みを見たソツは、何も言わず、温かな瞳を浮かべたまま彼を見遣り、そ
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