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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の2:思い通りにいくものか
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の大任を成就しようと、一人の青年の未来を閉ざす決意を決め、それを実行しようとした。恨まれて然るべき、いや恨まれなければやってられない職務であった。しかしその青年からは憐憫の目で見詰められ、領主らからは哂われるだけ。行き場の無い激しい思いが胸を痛みつけ、誰にも告げられずに蟠っている。
 無防備な彼女の寝顔を見ながら慧卓は一つ溜息を吐く。ふと、後ろの方から足音が聞こえて来た。慧卓がそれを振り返って見ると、今一番に会いたくない人物が立っていた。

「ケイタク殿・・・」
「っ!!ソツ様・・・」

 雨除けのロープを羽織り、腰に剣を挿した格好でソツが其処に立っている。手には鐙つきの鞍が握られて、背中にはナップサックが背負われている。彼はこの暗き時間にも関わらず、村から立ち去ろうとしているのだ。

「この時間までずっとここに?」
「え、ええ。もしかして、もう御出立なさるのですか?今は夜中でしょう?」
「いえ、もう夜明け前ですよ。雨雲が厚いから夜だと思われるのも不思議ではないでしょう」
「そ、そうなんですか・・・」

 俄かに驚きながら空を見遣る。雲が白んだり空の青さが見えたりする事は無い。とても厚い雲が今、頭上を通過しているのだ。その内豪雨が来るのかもしれないのに、ソツは今から旅立とうとしているのだ。二度と家に帰れぬ遠き旅路へと。
 彼は自らの愛馬を起こし、その背中に鞍を掛けながら彼はいたく穏やかな口調で慧卓に告げた。

「ケイタク殿。短き間でしたが、御世話になりました。人間の方と御話できたのは初めてでしたので、とてもいい経験になりました」
「・・・怒ったり、しないのですか?あんなに酷い事を申し上げたのですよ?」
「あの時の貴方の表情は、本心から浮かべたものではないでしょう?恐らく、父上と政治的な取引をして私を追い落とそうとしたのではないですか?」
「・・・矢張り貴方はとても鋭敏な感性をお持ちでいらっしゃる。恥ずかしながら、御指摘の通りに御座います。何と申し上げたら、よいのか・・・」

 鞍の位置を調整する手を止めて、ソツは晴れやかな微笑を浮かべて彼を見た。恨んで欲しいのに、という慧卓の本心を見透かしているのだろうか、彼は善意の言葉を掛けた。

「ケイタク殿。これは貴方の言ですよ。『本心ではないのに、建前上やらなくてはならない事がある』。あの時の貴方もきっとそのように己を律されてたのではないですか?」
「・・・」
「本心を口にするのもいいでしょう。ですがそれによって導き出されるのは、貴方にとって望ましい結末ではなかった筈です。父上は怒り狂い、ひょっとしたら貴方の御同胞を殺していたかも。それをお望みでしたら本心を口にしていたが、貴方は建前を通された。理由は容易に想像できます。それを通される事で、貴方はより多くの利益を手にす
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