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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の2:思い通りにいくものか
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論ソツにも怒りがあるだろう事は、その瞳の潤みから分かる事であった。だが彼は一向に怒鳴り散らしたりせず、それどころか激発寸前の部下に静止するよう気を払っている。懐に収めていた護身用の短剣を掴んでいた者達は、これによって歯をぎりぎりとさせるだけに留まっていたのだ。慧卓にとってはソツの忍耐力と自制心は、信じられぬものであった。

「そういう訳だ。この期において告げさせてもらうがな、貴様はもう俺の息子ではない。というより、俺の息子として相応しくない。明日の昼までに荷をまとめて消えるんだな。無論、貴様らの配下の者達も、家族まとめて消え失せろ。今は寧ろ、人手が余って無駄に食糧を消費する状態だから、ここいらで口減らしをしておきたかったのだ。一石二鳥だな」
「貴様・・・キ=ジェっ・・・!!」
「怒るか?ならその剣を抜いてみよ。ここで貴様を殺した後に、貴様らの家族も葬ろうぞ。赤子を斬るというのも中々に愉しいぞ。補佐役共もどうかな?エルフを殺すのは初めてか?」
「・・・私は遠慮しましょう。ここは血で染まっていい場所ではありませんから」
「補佐役殿はなんと優しい方よ。このような愚劣な者共に同情し、寛大さをお示しになられるとは。正に貴方は王国騎士の鑑だ」

 屈辱的な賛辞である。慧卓はそっと視線を逸らして爪が食い込むほどに拳を握った。自分を強く責め、詰って欲しかったというのに、誰もそれをしない。自分の行為を正当化し罪悪感を感じないためには、そういう状況が出来てくれた方がよかったのに。まるで無理な演技を気遣われているようにも思えて、慧卓は泣きたい気持ちすら込み上げて来た。
 ソツは心中穏やかではないというのに、震えも来さぬ口調で言う。

「・・・皆、武器を納めよ」
『ソツ様っ!!』
「納めろと言っている!死にたいのか?」
「私どもは命は惜しくありません!しかし貴方の名誉がーーー」
「部下共々、志も果たせず、何も出来ずに死ぬ事の方が遥かに不名誉だ!いいから武器を納めよ!命令だ!」

 臣下の者達は苦渋の表情となり、怨念の篭った目をキ=ジェとホツに注ぎながら、諸手を静かに下ろす。ソツは優美であり、同時で寂しさの感じる笑みを浮かべて肉親に顔を向ける。

「父上・・・長きに渡りお世話になりました。兄上、どうか長生きなさって下さい。私は母上に会ってから、西へと向かわせていただきます」
「西・・・白の峰か。よかろう。霊峰の中でひっそりと暮らして、二度と山から下りてくるなよ?エルフの名誉に傷がつくからな」

 無遠慮な言葉に深々と礼を返して、ソツは口を閉ざして部屋を後にする。彼の臣下達もそれぞれに怒りと、悔しさと、或いは恨みを身体全体から発奮させながら部屋を後にした。領主と次期後継者、そして調停官補佐役に対する爛々とした恨みの視線。慧卓が生涯忘れ得ないで
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