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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の2:思い通りにいくものか
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彼の心を揺さぶった。

「・・・無理して言っていますね、ケイタクさん。頬が引き攣っています。私も便秘の時は同じ顔になるんですよねぇ」
「聞きたくなかったな、そういうのは」

 揺らぎかけた覚悟を直ぐに引き締めて、慧卓は必死に笑みを浮かべる。どこか遠くを見るような、まるで心中を覗くような静かな目をしているソツに向かって、慧卓は己を律するかのように言ってのけた。

「ソツ様。非常に厳しい事を申し上げるようで恐縮ではありますが、貴方は望まれた息子ではないのです。後継者たるに、父上の遺産を相続するに相応しくないエルフなのです。どうぞ部下の方々に武器を納めるよう命令していただきたく存じます。これ以上の恥は、貴方の人生をより深い闇へと追い落とすだけでありましょう」
「・・・・・・」

 ソツの瞳は揺るがず、ただただ慧卓を見下ろすのみ。怒り狂う周囲とは反対に、蔑みの当事者はどこか冷静な表情をして慧卓を、一縷の憐憫でもって眺めていた。慧卓の心が一層締め付けられ、胸が痛み始める。

「ソツ様っ、あ奴の言う事を信じてはなりませぬ!」
「そうですぞ!ソツ様の名誉を汚すだけに飽き足りず、領主殿の名誉までいいように誑かしたのですぞ!我等の手で奴と、奴の仲間を葬るべきです!」
「えっ!?私達も!?」
「不本意な結末だな、おい」

 ユミルはパウリナを胸元に引き寄せながら身構える。彼と臣下達の剣呑な光が正面から火花を散らしあい、余波を受けてかパウリナの顔色が段々と悪くなっていく。
 ソツは慧卓から目を離して父に向かう。

「・・・父上、分かりました。兄上に自分の跡を継がせる事をお望みでしたら、私は何も申しません。この上は兄上のお傍にてーーー」
「それも不要だ」
「・・・え?」
「前々から思っていたのだが、貴様は俺の息子ではないのかもしれんな。俺の息子であるならば身体つきももっと屈強であっただろうし、この程度の事で妥協するエルフではない。矢張り、貴様は別の種の息子か?まぁ俺の妻も中々に股の緩い女だったから、ありえない話ではないかも知れんなぁ」
「私はそうとは思いませんよ、父上。私の弟はよく母上に似て聡明で、優しき男であります。ですがその程度の事はエルフにとっては当然の性。それを誇られるようでは母上も嘆きましょうぞ。随分と自意識の高い愚図に成り下がったものだな、失望したぞ、ホツ」
「うむ、そちらの方が正しいな。訂正するぞ、出来損ない」

 陰険な笑みが交わされるのを見てソツは再び閉口し、明らかな失望の表情を浮かべた。自らの掲げる理想や道を誰よりも分かってくれそうな者達が、揃って己を馬鹿にし、果ては生まれまで持ち出して人格を傷つけようとする。同じ腹から生まれた男の言葉にも思えず、失望の念たるや底無しの沼のように深く暗いものであった。
 無
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