After days
spring
Happy Valentine
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しめていた襟を放すと、一言謝って座り直す。
「分かっています。……ただ、俺は諦めない。目処は付いてるんです。後日、母が伺いますのでそれが解るでしょう」
「そう、か」
倉橋は俺の義母が『神医』だと言うことを知っている。
数多の難病を治療してきたその『神医』の名を知ってもなお、信じがたい。AIDSとは、それほど難しい病気なのだ。
「では……失礼します」
だが、俺は彼女が生きている限り、立ち止まることは無いだろう。
彼女が助かった時、それが俺のたどり着かなければならない場所だ。
俺は答えを聞かずに体の向きを変えると、その場を去った。
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Side???
小綺麗な教室。その場にいる人は皆静かで、お行儀がいい。
「……………」
窓の外の景色を眺める。
車の騒音1つしない。聞こえるのは木々が擦れる音、小鳥の囀りだけ。
だが、それらもまた幻だ。
ここは《ヴァーチャル・スクール》。様々な病気の子供達が通い、勉強する数ある医療ネットワークの1つだ。
こんな時、思い出すのは1人の少年。年の差を考えると、もう16歳だろうか。
姉を交えて無邪気に遊んでいたあの頃。――もはや戻ることの出来ない時間。
「……螢」
彼は元気だろうか。もう4年近く会っていない……。
『だったら、俺が2人を助ける』
『え……?』
『だから、待ってろ。俺が行くまで死ぬな。死んだら怒るからな!!』
『……はぁ、無茶苦茶言ってるよ、螢』
その約束は半ば叶えられなかった。姉は逝ってしまった。
だが、『レイ』を名乗る人物から常に最新のAIDS治療技術が提供されているのは知っている。
『レイ』とは何者なのか。それは彼女が最も知りたいことの1つだ。
「木綿季君、ちょっといいかな?」
急に声を掛けられてビクッ、と振り向くと主治医である倉橋が廊下のドアから手招きをしていた。
「先生?どうしたの?」
小走りに近づいて行くと、倉橋はにっこり笑ってお洒落な袋を差し出した。
「『レイ』さんからのバレンタインプレゼントだ。『皆で食べなさい』って」
「わぁ……!」
袋を受け取ると、中を覗き込む。すると、袋の一番上に『木綿季へ』という包みがある。
それ以外の包みには何もなかったので、適当にクラスメイトに配る。
教室の隅でそれを開けると、ポン、と音を立てて1枚の紙が出てきた。
『Happy Valentine木綿季
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