第二部
第一章 〜暗雲〜
九十二 〜勅使〜
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を目深に被り、外套で身体を包んでいる為、顔は良くわからぬが。
「土方殿であるな?」
「はっ」
「うむ。勅令である、謹んで受けられよ」
拝礼し、膝をつく。
「……その前に。土方殿以外は外されよ」
老官吏がそう言うと、愛紗らの顔色が変わった。
「お言葉ですが、勅使殿。何故、我らの同席が許されぬのでしょうか?」
「これは、陛下より土方殿に宛てた勅使ですぞ。官位のない者は立ち会う事、罷り成らぬ」
「何ですと!」
「止せ、愛紗。皆もだ」
愛紗に同調しようとした鈴々や彩らも、一緒に押し止める。
「しかし、ご主人様」
「勅使殿の仰せ、ご尤もだ。皆、下がっておれ」
「……は」
不承不承、皆は天幕を出て行く。
「勅使殿、ご無礼の段平にご容赦の程を」
「いやいや。……では、勅令を申し伝える」
「は」
老官吏はそこまで言うと、背後に立つ子供に眼を遣った。
子供は頷き、帽子と外套を脱ぎ始めた。
「あ、貴女様は!」
「久しいの、土方」
見間違いようもない、協皇子御本人だった。
「皇子。何故このような」
皇子は、唇に指を立てた。
「静かに。私の事は内密に頼む」
「……は」
老官吏は一歩下がり、皇子が前に進み出てきた。
「土方。近う寄れ」
「ははっ」
頭を下げたまま、私は一歩近づく。
「もっとじゃ」
「……では」
手を伸ばせば届きそうな距離になり、漸く許しを得た。
「実はの。姉上と月が、危ういのじゃ」
「陛下と月が? それは一体」
「うむ。……先日の事じゃ、張譲が私を訪ねて参ったのじゃ。そして、私に帝位に就くよう迫ったのじゃ」
「ですが、陛下は未だ健在でござろう」
「そこじゃ。私が賛成すれば、速やかに姉上と義母上、それに何進を捕らえ幽閉する企みじゃと」
「なんと。立派な大逆罪ではありませぬか」
「無論、私は突っぱねた。それに、姉上の傍には月がついておる。迂闊な真似など出来よう筈がないとな」
月は確かに優しい娘だが、芯は強い。
それに、傍には詠と閃嘩(華雄)がついているのだ。
軍勢こそ減らす事になったが、如何に宦官共とは申せ、敵に回せば厄介な相手であろう。
「すると張譲め、月を抑え込む為の手は打った、と申したのじゃ。よって、もう姉上らの味方はおらぬ、とな」
「…………」
「私があくまでも拒んだ故、その場は引き下がった。じゃが、今後は私を力尽くで従えさせようと蠢動を始めた」
協皇子は、悲しげに頭を振る。
「そこで、この老いぼれめが皇子に洛陽から出る事をお勧めしましてな」
「失礼でござるが、名をお聞かせ願えませぬか?」
「盧植、と申します」
「盧植殿。あの盧植殿でござるか?」
「どの者を指しておられるのかわかりませぬが、我が名は盧植ですぞ」
黄巾党討伐の折
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