A's編
第二十七話 裏 (はやて)
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足を運ぶことにしたのだった。
傘をさして、苦労しながらやってきた図書館は、雨という天気のせいもあるのだろう、非常に盛況だった。しかし、場所柄だろうか、あまり煩いということはないが、それでも人の気配は濃かった。そんな中をはやては車椅子を操作しながら走る。
最初は、人の気配があることを喜んでいたはやてだったが、その喜びもすぐにしぼんでしまう。確かに、図書館は人の気配にあふれている。しかし、誰もはやてを見ていない。誰もはやてを知らない。まるで道路の石のように無視される。当然と言えば、当然だ。図書館にいる人たちとはやては、無関係なのだから。赤の他人なのだから。
だが、気配があるにも関わらず、誰もはやてを見ていない。誰もはやての名前を呼んでくれない。誰かがいるのに孤独を感じてしまう。
本当に一人の家と図書館のように誰かがいるのに誰もはやてを見ていないこの状況、はたしてどちらがマシだろうか。その答えははやてにはわからない。しかし、ここで戻って独りで過ごすのは嫌だった。こんな雨の日に一人であの家にいると彼らがもう帰ってこ―――
「いやいやいや」
危うく思い浮かんだ考えを振り払うようにはやては首を振った。
今は、そんな考えを振り払って、気分を変えて、何か読む本を探そうとはやては、図書館の中を移動する。はやてが向かったのは、ファンタジー系の話がある場所だ。彼らが騎士を名乗ったからだろうか、彼らの参考になれば、と騎士たちが活躍する物語を読んだりする。もっとも、そこに出てくる騎士とはほとんどが男だったが。
「あっ」
そんな中、はやてはある一冊を見つける。昔から読んでいる本の最新刊だ。気付かなかった。おそらく、彼らと一緒にいることで気付かなかったのだろう。いつものはやてならすぐに気付いていたはずなのだが。大好きな本の最新刊に気付かないほどにはやては幸せだったのだろう。
彼らがいないおかげで、最新刊を見つけられるとはなんという皮肉だろうか。
そんなことを考えながら、はやては車椅子から身を乗り出して本に向けて手を伸ばす。いつもならシャマルがとってくれるのだが、この場所に彼女はいない。だから、はやては自らの手で取ろうとしていた。しかし、ぎりぎりのところで届かない。あと少し、あと少しという考えが、職員を呼ぶという考えを除外していた。
大きく身を乗り出して、あと少しで手が届くというとき、不意に横からはやてが手に取ろうとした本の隣に向けて手が伸びてきた。
「えっと、これでいいのかな?」
はやては、驚いた。まさか、図書館で自分に声をかけてくる人がいるとは思っていなかったからだ。過去にも似たような経験はあるが、結局は、自分から声をかけない限りは、誰も助けてくれなかった。だから、この予想外の助け
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