A's編
第二十七話 裏 (はやて)
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えにいってあげてな。今日はヴィータが大好きなカレーやから」
「はい、すぐに戻ってきます」
ぺこりと頭を下げるとシグナムは、小走りにリビングから寝ていたはずのザフィーラと一緒に出ていく。しかも、リビングを出た先でシャマルの声もした。もしかして、全員で出ていくのだろうか。もしかしたら、はやくヴィータを見つけるために全員で行くのかもしれない。そんな風にはやては納得していた。なにより、彼女はシグナムの言葉を信頼していた。騎士然とした彼女が言葉を違えることがないという全幅の信頼だ。だから、自分は、晩御飯の準備をしておけばいい。そう思いながら、はやては、冷蔵庫からサラダの材料を取り出すのだった。
――――そして、この日からはやては、再び一人になった。
◇ ◇ ◇
「雨……」
八神はやては、外を見ながらつぶやいた。はやてが呟いたように窓の向こう側に見える外ではしとしとと小ぶりの雨が降っていた。
ヴォルケンリッタ―の面々が帰宅せずに二週間が過ぎていた。彼らが帰宅する様子はまったくない。ある日、ひょっこりと帰ってくるのではないだろうか、とはやては思っているのだが、それは希望でしかないのかもしれない。思念通話といわれる魔法で呼びかけても全く返事はない。思念通話があるため、彼らには携帯を持たせていないことが裏目に出た。はやてが携帯を持っていても意味がないからだ。
彼らがいなくなった二週間、はやての世界は彩りを失った。半年程度前と同じに戻っただけだ。だが、その生活にはやては耐えられなかった。なぜなら、はやては知ってしまったから。家族の温もりを、暖かさを、隣に誰かがいることの幸せを。彼らがいなくなったからといって、彼らと一緒にいた幸せな過去をなくすことはできない。はやての中の価値観はすでに変わってしまったのだ。
―――独りが怖い。
彼らのいない生活はまるで、極寒の中を裸で放り出されたような冷たさだった。よく自分は、こんな生活を続けてきたな、と思えるほどに。
さらに今日は雨だ。一人でいるせいか、しとしと、ぽつぽつという雨の音が気になって仕方ない。しかも、雨のためだろうか、室内に音が籠っているのだろう。日ごろは、あまり気にならなかったチクタクという時計の秒針が動く音がやけに耳障りだ。どれもこれも、はやてが一人であることを強調しているように思えて、余計に一人であることを自覚してしまう。
「図書館にでも行こうか」
毎日、彼らがいつ帰ってきてもいいように必要最低限以外は、外に出なかったはやてだったが、この孤独に耐えきれなかった。少しでも人気が欲しかった。自分が一人でないことを自覚したかった。喧噪のある場所へと行きたかった。だから、最近はめったに一人ではいかなくなった図書館へと
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