A's編
第二十七話 裏 (はやて)
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は、はやてを大いに驚かせた。
はやてに助けの手を伸ばしてくれたのは、はやてと同じぐらいの普通の男の子だった。別に容姿が格好いいわけでも、身長が高いとか、髪型が特徴的だ、とかではない。どこにでもいそうな至って普通の男の子だった。
初めて図書館で手を差し伸べてくれた男の子の名前は、蔵元翔太。はやてが忘れらない男の子の名前だった。
◇ ◇ ◇
「ショウくん、遅いなぁ」
はやては、リビングで時計を見ながらつぶやいた。
図書館で意気投合した二人。本当は、図書館の談話室で少し話そうとした。だが、談話室はいっぱい。しかし、一人になるのが嫌なはやては、自分の家を提供することにした。翔太も快諾したため、家にやってきたのだ。久しぶりに一人ではない家。誰かがいる空気。隣に人がいる暖かさ。自分の言ったことに答えてくれる誰か。翔太の存在が、過去の彼らと一緒だった時の幸せな時間を思い出させてくれる。
しかし、その時間も長くはなかった。翔太は、彼らとは異なり、ここには住んでいないのだ。彼にも帰るべき家がある。それを理解してなお、はやては、彼が少しでも長く家にいるように説得した。孤独は嫌だったから。一人で感じる寒さが嫌だったから。何より―――寂しかったから。前は何とも感じなかったのに、今となっては、広いと感じるこの家に一人でいるのが嫌だったから。
そんな我がままのためにはやては、翔太を家に引き留めた。最終的には、泊まりこむところまで引っ張ることに成功した。
お泊りの道具を取りに行ってくるといったん家に帰った翔太。「すぐに戻ってくる」と言った彼に少しだけ嫌な予感を覚えたはやて。彼が口にしたその言葉は、消える直前のシグナムが口にした言葉だったからだ。現に、翔太が家を出てから一時間以上たっている。しかし、彼がこの家に帰ってくる気配はない。
まさか、ショウくんも―――
そこまで考えて、はやては、その考えを打ち消した。はやてに近づいた誰もがすぐに離れていく。それでは、はやてが一人で、孤独でいることはまるで運命づけられているようではないか。そんなことは信じたくない。彼女は知ってしまったから。誰かがいる幸せを、喜びを、暖かさを。手に入れて、手放してしまった。彼らがどうなっているかわからないが。
だから、もう手放したくなかった。翔太という暖かい彼を。もう二度と、あの凍える冷たい空間は嫌だった。夜、ベットの中で寂しさで、孤独で、冷たさで、涙を流したくなかった。
「もう、ひとりは嫌や」
そのポツリと漏らした言葉が真実だったのだろう。
孤独は嫌だ。そんな風につぶやいた少女を救うように家に設置されたチャイムが鳴る。そして、今、そのチャイムを鳴らす人物をはやては一人しか知らない。
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