A's編
第二十七話 後
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「ちょっと待っててな。今、持ってくるから」
え? 何を? と問う前にはやてちゃんは、僕が伸ばした手が届くよりも先にリビングから出て行った。残ったのは、テーブルの上に置かれた湯気を立てるコーヒーのカップと僕だけ。仕方なしに僕は、出されたコーヒーに口をつける。インスタントだ、という割には僕には飲みやすかった。やはり、いつも飲み慣れているコーヒーのほうがおいしいのだろうか?
「すまんな、持ってきたで」
二口、三口とコーヒーを飲み進めていると開けっ放しだったリビングのドアからはやてちゃんが数冊の本を抱えてやってきた。それらをドスンとテーブルの上に置く。大きなハードカバーサイズの本が六冊。それらはすべて同一のシリーズなのだろう表紙に書かれているタイトルの書体と作者名は同一のものだった。
どこかで見覚えがある、とは思っていたものの、答えは簡単だ。なぜなら、その本は、僕とはやてちゃんが出会うきっかけになった本の一巻から六巻なのだから。
図書館で借りていたはずなのだが、どうやら彼女は自前でも購入していたようだ。きっと七巻も購入するつもりだったのだろう。しかし、彼女は今日まで七巻を買っていなかった。いや、別にかまわないのだが、彼女の口ぶりからして、はやてちゃんが、この本の相当のファンであることは確かだ。そんな彼女が、購入を忘れていたとは考えにくいのだが。
「全部持ってたんだ」
「せや。やっぱ、読みたいときに手元に置いときたいやん」
笑顔で語るはやてちゃん。なんというか、本好きの手本みたいだ。確かに、本好きな僕たちにとって読みたいときにその本が手元にないのは苦痛だ。僕でも、図書館で読んで、気に入った本はあとで個別に買ったりすることもある。
「あれ? でも、七巻はどうして買ってなかったの?」
「それは―――ちと、忙しかったんや」
少しさびしそうな色を含めた笑みで誤魔化そうとするはやてちゃん。どうやら、その部分は、僕が触れていいような部分ではないようだ。だから、僕は、そうなんだ、と詳細を聞き出すことなく引き下がるしかない。誰にだって触れてほしくないこと、話したくないことがある。そこに触れるには相当の勇気と信頼関係が必要だ。僕たちの間にそれはない。だから、引くしかないのだ。
「でも、七巻も借りてきた分があるし、ええやろう。ショウくんは、何巻の話が好きなんや?」
「そうだね、僕は―――」
そこから、僕とはやてちゃんの熱く、まるでオタクのような本についての雑談が始まるのだった。いや、しかしながら、本当のファンが話すとこんな感じなのだろうとは、思うけどね。
◇ ◇ ◇
この家に来て、どれだけ話しただろうか? 少なくとも日が傾く直前までは話していた
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