A's編
第二十七話 後
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彼女が通りやすいように僕が二人ぐらいは軽く歩けるほどのスペースが置かれていた。
「適当に座っていいで」
僕が部屋に入ってきたのを見たのだろう。はやてちゃんが僕にソファーに座ることを勧めてきた。僕は言われたとおりにソファーに腰掛ける。ソファーは上等なものなのだろう。我が家にあるものよりも柔らかく、ふんわりと沈み込むような感覚を受けた。
「なぁ〜、ショウくんは、紅茶とコーヒーどっちがええ? まあ、両方ともインスタントやけどな」
笑いながらはやてちゃんが聞いてくるので、僕は、コーヒーと答えた。はやてちゃんは、インスタントなのをネタに笑っていたが、一般の家はそれが普通だと思う。豆からひいたコーヒーや葉を考えた紅茶が出てくるのは、アリサちゃんやすずかちゃんの家ぐらいだ。家で飲んでいるのもインスタントだし、僕には全然不満はなかった。
台所から水を出す音とコーヒーの粉でも出しているのだろうがさがさという音がしていた。はやてちゃんが車椅子であることを考えると手伝ったほうがいいかな? とは思ったが、彼女の様子からして、はやてちゃんが車椅子になったのは、ここ最近のことではないだろう。つまり、はやてちゃんは、車椅子に乗ったままの作業に慣れているはずであり、僕が手伝っても邪魔なだけだろう。だから、僕はソファーに座っておとなしく待つことにした。
ふと、ソファーに座ったまま周りを見渡してみる。
はやてちゃんに配慮しているのか、背の高い家具などはどこにも見当たらなかった。すべての家具の高さが僕の胸ぐらいで、はやてちゃんの手が届くような位置だろう。
――――あれ?
はやてちゃんに配慮して、すべての家具が彼女の身長よりも低い位置にある? おかしい話だ。もしも、はやてちゃんだけが、この家に住んでいるならまだわかる。しかし、彼女はどうみても僕とそんなに離れていない。最低でも保護者はいるはずだ。現に先ほど見たテーブルの上には湯呑が四つ置いてあった。あれはおそらく彼女の家族のものだろう。よって、すべてをはやてちゃんだけに配慮する必要はない。彼らが使う分は、普通のサイズでいいはずだ。それが、なぜかはやてちゃんだけに合わせている?
もちろん、家族が気を使って彼女に合わせている可能性がないわけではない。だが、それでも違和感はぬぐえなかった。
「どうしたんや? なんかおもろいもんでもあったか?」
コーヒーが乗ったお盆を片手にはやてちゃんがやってきた。彼女は、僕が考えていたことも知らずに、面白いものなど何もないやろう? と言わんばかりに苦笑していた。まさか、君の家族のことが気になっていた、なんてまだ出会ってから数時間しか経っていない少女に聞けるはずもなく、僕はあいまいに微笑みながら、そうだね、と相槌を打つことしかできない
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