第十八話 黒真珠の間(その三)
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いる。
「何の用だ、アントン。礼でも言いに来たのかな、思い通り動いてくれたと」
「……気付いていたか」
俺が苦笑するとエーリッヒが頷いた。
「ローエングラム公、キルヒアイス提督の二人は知らなかった。しかし卿とフロイラインは知っていた、あの事態を驚いていなかった。卿とフロイライン、そしてギュンター・キスリング、三人が今回の一件を仕組んだ……」
周囲の視線が強まったような気がした。喉が干上がるような感じがする。
「……その通りだ。オーベルシュタイン中将は部下にフェザーンの動きを探らせた。その部下の中にギュンターが居たんだ。証拠が有るにも拘わらず中将は何もしなかった。危険を感じたギュンターは俺に相談に来たんだ」
「オーベルシュタインの考えははっきりしている。フェザーンと私を噛み合わせる、騒動を起こさせ両方叩き潰す。そんなところだ」
おそらくそうだろう、ギュンターもそれを恐れていた。そして相談を受けた俺も危険だと思った。俺が相談したフロイライン・マリーンドルフも危険だと同意した。
「ギュンターは黒姫一家が動いている事も知っていたはずだ。そこで卿らは私を親睦会に招待する事を考えた。私が何らかの行動を起こすと期待してね」
やれやれだ、全てお見通しか。
「何故、ローエングラム公に憲兵隊の事を言わなかった?」
「私が言わなくても公はオーベルシュタインに不審を抱く。必ず問いただすはずだ。オーベルシュタインは沈黙するか正直にフェザーンと私を噛み合わせるつもりだったと話すだろう、そして叱責される。彼が沈黙したばかりに公は満座の中で顔を潰されたんだ。彼が公に信頼されることは無い」
エーリッヒが薄く笑っている。カミソリのような笑みだ、昔はこんな笑みを見せる男ではなかった。
「それにしても新たな防諜組織の長に俺をか……」
「オーベルシュタインに対抗できるのは卿ぐらいのものだ」
「評価してくれて嬉しいよ」
「毒には毒、そう評価している。嬉しいだろう?」
「……」
エーリッヒが笑みを消した。
「気を付ける事だ、オーベルシュタインは味方を作る事よりも味方を切り捨てる事、敵を作り出して潰す事を優先する男だ。彼にとっては自分以外の全ての人間が反乱予備軍だ。彼の好きにさせたら陰惨なことになる」
「そうだな」
エーリッヒはさっきからオーベルシュタイン中将を呼び捨てだ。敬意など欠片も払う気になれない、或いは敵と見定めているということだろう。
「ローエングラム公は英雄だ、公明正大でもある。しかしそういう人間ほど人間の卑小さを理解できずに足元を掬われがちだ」
「なるほど」
「ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが銀河帝国皇帝になったのは彼が英雄だからじゃない、狡猾で強かだったからだ。公にはそれが足りない」
「随分な言い様だな
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