第七章 (3)
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誰も、一言も発しなかった。
柚木すら、一言も発することが出来なかった。ただまじまじと、珈琲を呑む紺野さんを初めて見るような顔で眺めていた。…そんな柚木をぼんやり観察しながら、僕はこう考えていた。
―――なんて、合理的なんだ。
こんな風に思ってしまう自分が嫌いだ。紺野さんはいい人だと思うし、実際に酷い目に遭っているなぁと思っている。
なのに僕はどういうわけか、伊佐木という課長の手管の鮮やかさに感心してしまう。
経営の危機を救い、上層部の無茶な懸案を呑み込み、開発チームの職人気質まで利用して、彼は『会社にとってのスジ』を通した。すごくイヤだけど、僕には彼の思惑が手に取るように分かる。そして彼が次に打とうとしている一手も見える気がする。
「……あのさ、紺野さん」
「なんだ」
「紺野さんたち、一切の情報を封印したんだよね」
「あぁ」
「……それでこれから、どうする気なの?」
「………」
紺野さんは、ぎくりと肩をふるわせた。
「今の紺野さん、七並べでカード止めてる子供と一緒だ」
「…うまいこと言うじゃねぇか」
「ちょっと、何なの?あんたらだけで話を完結させないで!」
柚木が割って入ってきた。自嘲気味に笑って、紺野さんは指を組みなおした。
「――もう『積み』ってことだ。このプログラムが完成すれば、俺達は社会的に殺される」
「そ、そんな!まだきっと方法が!!」
「……あるよ」
ふいに割り込んだ僕の声に反応して、柚木がガバッと振り向いた。
「なんで姶良に分かるの!?そしてなんで私に分からないの!?」
し、失敬な…。一瞬、もうこいつには教えてやるものかと思ったけれど、ここで知ったかぶっただけだと思われるのも悔しいので話してやることにする。
「要はこの件が、『なかったこと』になればいいんだ。…今まさに、紺野さんがやってることだよ」
紺野さんが、片眉をあげてにやりと笑った。
「すでにプログラムが完成してて、デバッグとモニターテストだけになってること、その課長には伝えてないんだろ」
「…察しがいいな」
「僕がその課長なら、こう考えるからだよ。紺野さん達を生贄にするなら、完成品のプログラムを何が何でも手に入れなきゃいけない。…最初は、技術者を雇って引き継がせようとしたけど、紺野さんの妨害に遭った……」
「妨害ってなんだ妨害って」
「いちいち絡まないでよ…で、伊佐木課長は作戦を変えた。まず紺野さんを泳がせて、プログラムを完成させた時点で記者会見を開いて謝罪を行い、完成されたプログラムを配布すればいい。あとは紺野さんが何をぎゃあぎゃあ喚こうが、先に言ったもん勝ち」
「…ま、そんなとこだろうな」
「紺野さんは、プログラムが完成した時点で屠られる。ならば取るべき手段は一つ」
珈琲はいつしか空になっていた。空の
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