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くらいくらい電子の森に・・・
第七章 (3)
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こからどうするつもりなのか。そして僕らは、どう反応すればいいのだ。とりあえず、柚木が椅子に戻った。
「じゃ、紺野さん、立ってください」
「…え?」
「私の指示に従って、珈琲を淹れるんです。あ、手元が見えるところまで、私を持っていくんですからね!」
…そう来たか。紺野さんはイマイチ納得いかない顔で、首を傾げながらノーパソを抱えてキッチンに消えた。…すみません、紺野さん。
「まず、銅鍋でコーヒー豆を炒るんです!」
「…いや、もう炒ってあるから」
「でも、でも炒るんですから!」
「ていうか銅鍋がないんだよ…」
「じゃ、いいです。…次は珈琲豆をフィルターにセットして」
「挽いてないよ」
「あっ…ひ、挽くのはコーヒーミルで…その…ミルで…」
「…うん。ミルでね。分かった」

キッチンから、不安な言い合いが聞こえてくる。柚木も相当不安らしく、たまに伸び上がってキッチンを覗いている。
「どうしたの?あれ…」
「どうしたも何も…僕だってよくわかんないけど、自分ほったらかして皆で楽しそうに朝飯食べてたからすねちゃったんだよ」
「こういうこと、ちょいちょいあるの」
「…いや、こんなに反応するのは初めてだ」
「ふーん…ヤキモチだね!ちっちゃい子みたい」
柚木は、はっとするほど優しく笑った。
「そうじゃないですっ!もっと少しずつ、お湯を注ぐんですから!」
ビアンキは、なおも色々細かい注文をつけては紺野さんを困らせているらしい。もう言い返すのが面倒になったのか、紺野さんの声は聞こえない。
「それで、おやつはマリービスケットがいいです!かわいいから!」
「ねぇから…」
「えっと、じゃあアポロチョコもかわいいです!」
「三十路の1人所帯にアポロチョコが転がってたらイヤだろうが…」
「でも、ご主人さまのおやつ箱にはそんなのいっぱい入ってます!かわいいんです!」
「ビアンキ…いいからもう黙りなさい」
柚木がニヤニヤしながら肘で僕を突いた。あえて無視する。
「ご主人さま、ビアンキ印のホット珈琲です!」
ビアンキの弾んだ声とは裏腹に、浮かない表情の紺野さんが、珈琲を乗せたトレーとノーパソを抱えてふらりと出てきた。
「なに、ビアンキ印って…」
「ビアンキが、初めて淹れた珈琲なんですから」
「古いなぁ…」
「えっ…じゃ、カフェ・ビアンキ!」
「……喫茶店を開くな」
「キリマンジャロテイスト!」
「……マンデリンだ」
紺野さんに散々突っ込まれながらも、なんだか得意げに微笑むビアンキ。…柚木の言うとおり、ちっちゃい子みたいだ。結局俺が淹れたんじゃねぇか…と、まだぶつぶつ呟き続ける紺野さんのトレーから珈琲を取り、一口すすってみせる。
「ありがとう、ビアンキ。おいしいよ」
破顔一笑、ビアンキは子供のように無防備な微笑を浮かべる
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