第七章 (2)
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ひとがいたとしても不思議じゃない。
MOGMOGの配信方法に関しては、紺野さんに分があるとは思うけど、「MOGMOGの欠陥がばれないように、全ユーザーのプログラムを書き換える」必要があるというなら、伊佐木課長の案も全く的外れとは思わない。どっちの案をとるかは、その会社の姿勢の問題だと思う。効率をとるか、ユーザーへの誠意をとるか…。
「珈琲、入ったぞ」
香ばしい珈琲の湯気が鼻をくすぐった。紺野さんと会ってからこっち、うまい珈琲にありつく機会が多くなった。お陰で舌が肥えてしまって、ドトールなんかの珈琲が物足りなくなってきている。貧乏なのに困ったものだと思う。
「どうだ、いいだろう。うちコーヒーミルがあるんだぜ。ヤバいだろこれ」
「挽きたてかぁ…どうりで…ブルーマウンテン?」
「いや、マンデリン」
「…ふーん」
白いカップになみなみ注がれた珈琲の湯気に顔をさらす。紺野さんが何かを話し始めたみたいだけれど、ちょっと疲れたので個人的に珈琲ブレイク。なんか柚木が熱心に聴いてるみたいだから、あとで聞きなおそう。目を閉じて珈琲の香気を吸い込んで深くため息をつく…あぁ、至福…
「姶良、聞いてる!?」
柚木の大声で、香気の帳が破られた。僕はレンガをどかされたダンゴ虫のようにあわあわと周囲を見渡した。
「うぁ、あの…き、聞いてた…」
「あんな目に遭ったのに、どうしてそんなに気が散りやすいの!?…姶良、今に死ぬよ?」
「…ごめんなさい。ほんと、ごめんなさい」
「なんですぐ謝るの!!」
「…僕どうすればいいんだよ」
「…あの、続き話していいか?」
紺野さんは、苦々しげに語りはじめた。この話に至るまでの、長くて辛かった開発秘話を語る時よりも、ずっと苦々しい口調で。実際この先の話は、とてもイヤな内容になっていく。
「ここから先は、俺もよく分かってない話だ。ただ、社内で聞きかじった噂をもとにした憶測に過ぎない。…反吐が出るほどイヤな話だ」
人事部の同期から、社がプログラマーやSEを大量採用しているという噂を聞いた。
「忙しいのは分かるけどさ、自分のとこの人材なんだから、最終面接くらい顔出せよな」
…初耳だった。紺野さんは、軽く肩を叩いて去ろうとした同期を引きとめて詳しい話を聞くことにした。
「お前が知らないってなぁ…」
彼は呆れ半分、驚き半分な表情で事の次第を明かしてくれた。
紺野さんが上層部に業務改善を訴えた「MOGMOG開発会議」から1週間もしないうちに、開発部の企業向け商品開発担当者から『個人向け商品』開発要員として、SE・プログラマーを大量採用したいとの要請があった。個人向け商品は目下MOGMOGだけだし、担当者は紺野さんのはずなのにおかしいとは思ったものの、紺野さんが山奥に篭っていることを知っていたので、代理で面
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