第七章 (2)
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続きよろしく!」
柚木は一方的に話を打ち切り、紺野さんを促して体育座りしてしまった。場が収まったことを見越して輪に戻ってきた紺野さんの横顔を覗き込み、再び無言の問いかけをする。僕は殴られ損ですか、と。紺野さんはこの問いを黙殺して本題に戻った。
「…そして、MOGMOGは未完成のまま外見だけ取り繕って発売された。でも、それで済むはずないよな」
MOGMOGが発売されれば、プログラムを解析する輩が出てくる。解析されて、不正が公になるのは時間の問題だ。そこで紺野さんは開発会議の席で、ある提案をした。
「開発部は、完全なMOGMOGの完成を急ぎます。そして完成次第、MOGMOGユーザーにアップデートファイルとして配布するというのはいかがでしょうか」
守屋営業部長が、苦りきった顔で紺野さんを一瞥した。
「…元々入っている、ダミーのMOGMOGはどうなる」
「必要な情報だけMOGMOGに上書きして、あとはアンインストールします」
「アンインストーラーも一緒に配布するわけか。…バレないかね、そんなことして」
「そのリスクはありますが、現状のままにしておくわけにはいかないでしょう。まったく別物のソフトへの書き換えであることだけ伏せて、『重大なバグを修正するアップデートファイル』である旨、ユーザーに告知すれば、大抵のユーザーはインストールしてくれるんじゃないでしょうか。同時に追加される機能などの説明をread meテキストで添付すれば、大した混乱はないと思います」
紺野さんの発言が終わると、会議室内は水を打ったように静まり返った。…もう、これ以上議論の余地はない。皆がそう確信しているものと、紺野さんは高をくくっていた。
そのとき、銀色のカフスボタンをつけた純白の袖が、すっと挙がった。
「伊佐木課長」
進行役の社員が短く名前を呼ぶ。伊佐木課長は、いつもの左右対称な微笑を浮かべて起立した。イスを引く気配すら感じない、見事な「起立」だったという。どうでもいいけど。
「アップデートファイルへの『偽装』。一見、やむを得ないような気がしますね。しかし、もう少しだけ、改良の余地があるのでは、ないでしょうか」
「……は?」
前回の『ニセMOGMOG会議』以来、紺野さんは、この温厚そうな営業課長に漠とした不信感を抱いていた。そして紺野さんは、それを隠せる人じゃない。で、『偽装』という言い方にカチンときて、思わずぶっきらぼうに答えてしまった。
「はは…そう、剣呑にしないでください。…アップデートファイルを装うことには、一つだけ、心配な点があるのです」
伊佐木課長は言葉を切り、ゆっくりと周囲を見渡した。
「たとえば仕事で忙しい時や、少し重いデータを扱っている時。アップデートは後回しにされることが多いでしょう」
「…そうですね」
「その結果、
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