第七章 (2)
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んは、正面の壁を睨みつけた。
「…多分、昨日の犯人の1人は烏崎だ。」
顔をゆがめて、再び煙草をくわえなおした。
「済まなかったな。…その、根っから悪い奴じゃないんだけどな、追い詰められたと感じると、すーぐにいっぱいいっぱいになって、思ってもいないことを口走ちゃったり、先走った行動に出て、余計に周りの反感を買ったりする奴でよ」
各部署の部長や専務の前で吊るし上げられた烏崎は、突付けば破裂しそうな顔色で紺野さんを睨みつけた。会議室での、よくある光景のはずなのに、そのときの紺野さんには、受け流す余裕がなかった。
「いねぇよ、馬鹿」
「…なんだと!?」
「社則を見てみな。……退職宣言後、会社が俺達を縛れるのは、せいぜい1ヶ月だ」
紺野さんは、別件で使う予定で持ってきていた社則を、机に叩きつけた。
「…俺達がこの開発のために、何日休日を潰していると思う。そして、俺達が有給休暇を取っているとでも思っているのか」
烏崎が、ぎりっと奥歯をかみ締め、目を血走らせた。
「退職届と一緒に、溜まりに溜まった有給休暇と代休を叩きつけるに決まってんだろ」
「き…貴様!開発チームを私物化して、会社を脅迫か!!」
烏崎は『会社を』の部分を強調して叫び、専務が居並ぶ席にちらりと目をやった。気が弱ってくると立場の強い味方を増やそうと躍起になるのも、会議室でのいつもの光景だった。でも、今現在も開発チームが命を削って仕事をしているというのにこいつは…!と考えると、(ここで紺野さんはムラムラと怒りが蘇ってきたらしく、脇にあった本の山を蹴り崩した)紺野さんも、正常な判断力を喪ってしまった。
「なにが脅迫だ、俺達の車盗んで山奥に幽閉しやがって!俺が脅迫ならお前らは監禁だ!裁判起こさないだけ有難いと思え!!」
「しゃ、社用なんだから仕方ないだろ!座り仕事なんだからたまには足使えよ!!」
「麓につく頃には日が暮れてるわ!大体なんで山梨くんだりまで車回収に来てるんだよ!都内の事業所で借りなかった理由を言え!!」
「おっ…お前ら座り仕事なんだから車いらないじゃないか!?」
「てめぇっ!座り仕事、座り仕事って、制作バカにしてんのか!?」
…あとはもう、専務の御前で同期同士が、小学生のような罵り合いとなった。やがてどちらからともなく掴みあいが始まり、あわや大乱闘というところを収めたのは、営業一課の伊佐木課長だった。
「あぁ、いや、悪かった。私の不行き届きで、君らをこんな辛い目に遭わせてしまって」
猫なで声で紺野さんたちを引き離した伊佐木課長は、親戚でも死んだかのような沈痛な面持ちで首を振ると、紺野さんに向き直った。
「知らなかったんだよ、君達がそんな大変な思いをしているなんて。こんな会議を設ける前に、なぜ私に一言相談してくれなかったんだい」
「俺はっ……」
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